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2013年7月 アーカイブ

2013年7月 6日

多様な読みの交錯する織物としての文芸フェス

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7月5日の夕刻、3年ゼミ生主催の文芸フェス 「村上春樹は来ないけど(笑)」 が静かな興奮と軽い緊張感のうちに開幕!
パネリストやゲストはもちろんのこと、会場からもいろいろなコメントや質問が出され、予定していた時間を延長するほど盛り上がり、予想以上に楽しく活気ある「場」が現出した。
コーディネーター豊田宏くんの熱意とリーダーシップ、周到さ、気遣い、絶妙の司会に脱帽。


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工藤順くんによる「間テクスト」をめぐる簡にして要を得た格調高いプレゼン。
プログラムに載っている工藤くんの自己紹介が素晴らしいパスティーシュなので(勝手に)引用する。
「...やれやれ。僕は呟き、ゆっくりとシャツを着た。まるで壁に投げつけられた卵が、そっと地面に流れていくように。ジェイのジャズ・バーに着いたのは、30分後のことだった。ジェイはカウンターの奥で、サハラ砂漠に取り残されたトカゲの尻尾のように煙草を吸っていた。「スコッチかい?」ジェイは言い、「オン・ザ・ロックで」と僕は答える。チェット・ベイカーのトランペットはその日の気分によくあった。スツールに腰をかけて僕は『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の最初のページを開いた。...」


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渡辺麻貴さんによるリストの「巡礼の年」と村上春樹の『巡礼の年』についての美しいプレゼン。


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それに、須藤知沙さんの落ち着いた朗読。中国からの研究留学生、睨逸舟さんによる中国での村上の受容紹介。パネリストや参加者によるたくさんの興味深い意見やコメント。フェスを支えてくれたスタッフみんなのチームワーク。


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すべてが相俟って、多様な読みの交錯する織物を紡いでいくかのような驚異の(!)文芸フェスになった(ちょっと大げさ?)。
来場者に書いてもらったアンケートには、「大学に入ってから1番充実した時間だった」という感想があった。ありがとう!
詳しい報告は 『クリトゥーラ』 第3号に掲載される予定。

来てくださったすべての皆さまに感謝します。


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2013年7月 7日

スラヴ人文学会

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第5回 日本スラヴ人文学会大会のお知らせ

日時:2013年7月20日(土) 9:30~17:30
場所:東京外国語大学府中キャンパス研究講義棟1階115教室

《午前の部 個人発表》
原真咲(東外大院) 「ゴーゴリ『消えた手紙』の映画化に対する考察」
鈴木佑也(国立芸術学研究所 [モスクワ]) 「アーカイブ資料を用いた1930年代ソヴィエト建築界の動向に関する調査」
佐藤貴之(東外大院、ロシア国立人文大院 [モスクワ]) 「ブリヤート文学における日本とロシアの文化的統合:境界の詩人N.ニンブーエフ」
笹山啓(東外大院) 「ヴィクトル・ペレーヴィン作品における『言語/神秘主義/世界』」
生熊源一(北大院) 「『集団行為』と写真の配列 ―記録の3つのヴァージョンについて―」
佐山豪太(東外大院) 「言語使用の側面からみた『語形成における形態法の比重』―Word Familyという語の単位をめぐって―」

《午後の部 パネル企画 「言語の規範と記述」》
司会:堤正典(神奈川大学)
討論者:秋山真一(上智大学),清沢紫織(筑波大院)

報告ブロック①
堀口大樹(日本学術振興会特別研究員) 「ラトヴィア語とロシア語における借用語の動詞の完了化:言語の規範と記述の観点から」
菅井健太(東外大院) 「バルカン・スラヴ語における目的語の接語重複―規範と地域方言レベルの実態―」
貞包和寛(東外大院) 「ポーランド共和国におけるマイノリティ言語の記述と規範―カシューブ語、シロンスク方言、レムコ変種を考察する―」

報告ブロック②
Е. Ужинин(РГГУ院修了) "О некоторых явлениях лексического взаимовлияния турецкого и балканских языков"
光井明日香(東外大院) 「ロシア語の性に関する一致のバリアント―60年、80年アカデミー文法とCorbettのHybridsをめぐって―」
恩田義徳(外務省研修所・非) 「古代教会スラヴ語の標準化正書法と規範意識の表れとしてのイェルズ」

2013年7月11日

ウリツカヤ 『クコツキイの症例』 刊行!

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2001年にロシア・ブッカー賞を受賞した作品が日本語に翻訳された!
リュドミラ・ウリツカヤ 『クコツキイの症例―ある医師の家族の物語』 日下部陽介訳(群像社、2013年)である。
この大作が日本の読者に届けられることになってとても嬉しい。

第二次世界大戦の最中、疎開先の病院で主人公のユダヤ人医師パーヴェル・クコツキイが、後に妻となるエレーナの手術をする。パーヴェルには患部が「透視」できてしまうという不思議な能力が備わっていた。
こうしてこの「家族年代記」は最初からかすかに神秘的な色調を帯びつつ、当時禁止されていた人工中絶の解禁のために奮闘するパーヴェルとその家族を中心に据え、ソ連社会の一局面をリアルに描いて雪解け時代に至る。

社会と人間、生と死、宗教といった大きなテーマに真正面から取り組むウリツカヤ。
彼女を「現代のトルストイ」と呼びたい誘惑に駆られる。

2013年7月15日

大学院進学説明会

来る7月27日(土)12:00~16:00 本学本部管理等2階会議室にて大学院進学説明会がおこなわれる。
全体説明会、専攻別相談会、院生との懇談会などのプログラムが予定されているので、関心のある方はぜひいらしてください。

なお配布される冊子「大学院案内」に、博士後期課程在学中の笹山啓くん(現代ロシア文学)の以下のような自己紹介・研究室紹介が掲載される。


「総合国際学研究科博士後期課程言語文化専攻 笹山啓

現在、沼野恭子教授の研究室に所属し、作家ヴィクトル・ペレーヴィンを中心とするロシアの現代文学研究に従事しています。博士前期課程在籍時は大学の若手研究者海外派遣プログラム「短期派遣EUROPA」を利用してモスクワのロシア国立人文大学で学び、帰国後ペレーヴィン作品における東洋思想の影響をテーマとした修士論文を提出しました。今後は現代文学に軸足を置きつつ、60年代「雪どけ」期以降のソ連のアンダーグラウンドの文化とペレーヴィン作品との影響関係などにも視野を広げて研究を進めていく考えです。内部進学者と国内外の他大学からの進学者が集まった研究室では、少人数ならではの和気藹々とした雰囲気の中でもよい緊張感が保たれており、日々有意義な学究生活を送ることができています」

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 左から2人目が笹山くん


2013年7月26日

バイリンガル問題シンポジウム

来る10月6日(日)日本ロシア語教育研究会主催のシンポジウムがおこなわれる。


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シンポジウム 「子供のバイリンガル・日本語とロシア語」
日時:2013年10月6日(日) 10:00~17:00
場所:本学研究講義棟 115教室
基調講演:
エカテリーナ・プロターソヴァ(ヘルシンキ大学) 「バイリンガル教育の成功事例と失敗事例」
報告: 
ガンナ・シャトーヒナ(外務省研究所) 「日本語話者の子供のロシア語発音―課題とその解決方法」
原ダリヤ(上智大学) 「ロシア語と日本語の双方向の影響とバイリンガリズムの子供の話すロシア語での文法ミス」
ステラ・シヴァコーヴァ(創価大学) 「お子様と積極的にロシア語で話しましょう」
マリヤ・キリチェンコ(通訳) 「家庭でのロシア語の継承―思春期の教育問題」

今後、日本在住のロシア語話者が増えると、当然のことながら、バイリンガリズムの問題はますますクローズアップされるだろう。


2013年7月29日

オステル 『いろいろのはなし』

ロシアで最も人気ある児童文学作家のひとり Григорий Остер グリゴリー・オステル。何しろ面白い! 破天荒に面白い!
日本ではすでに次の2作品が紹介されている。

絵本 『細菌ペーチカ』(上下)毛利公美訳(東宣出版、2011年)

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童話 『いろいろのはなし』毛利公美訳(東宣出版、2013年)

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とくにお勧めの 『Сказки с подробностями いろいろのはなし』 (1989)は、メリーゴーランドの木馬たちが遊園地の園長さんにお話をせがむ場面と、園長さんのお話テクストが交互に現れる。木馬たちは、ひとつの話が終わりそうになると、その中に出てきた登場人物(登場動物)について次から次へと「もっと подробности(詳しい話)を聞かせて」と頼み、園長さんがそれに応えて、お話をいわば「枝分かれ」させて語っていく。
訳者の毛利公美さんが「あとがき」で書いているとおり、「ロシア初のハイパーテクスト」と言われている。たしかに、1本の太い幹のようなプロットがあるわけではなく話がいろいろな方向に枝分かれしていくという意味ではハイパーテクスト的だが、どこから読んでも構わないというタイプのものではなく、最初から順に読んでいくと既出のお話とあちこちでリンクしていき、最後にまるでジグゾーパズルのすべてのピースがぴたりとおさまるように収束する。見事というほかない。

オステルは今年末に来日すると聞いている。今から楽しみだ。

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