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内田魯庵訳 『罪と罰』

本日4月20日(土)東京大学駒場キャンパスで日本比較文学会東京支部の4月例会がおこなわれた。筑波大学准教授の加藤百合さんが、内田魯庵の訳した『罪と罰』について興味深い研究発表をしてくださる。私は司会を務めさせていただいた。

ドストエフスキーの『罪と罰』が初めて日本語になったのは1892年。フレデリック・ウィッショーというイギリス人作家がロシア語から英語に訳してヴィゼッテリ社から刊行した英語版(1886)を、内田魯庵が日本語にした(未完だが)。つまり重訳である。

じつは、翻訳するにあたって魯庵はロシア語のわかる二葉亭四迷の協力を得ていた。
加藤さんは、ロシア語原文・ウィッショー版英訳・魯庵版日本語訳の3点を丹念に比べることで二葉亭の関与がどの程度だったのかという課題に肉薄した。その結果、ウィッショーがところどころロシア語をそのままラテン文字に直して英訳テクストに入れていたために魯庵がロシア語の意味を四迷に訊ねて確かめざるを得なかったこと、作品が進むにつれて四迷の協力が大きくなっていったことを突き止めた。
下手な謎解き小説よりよほど面白くワクワクする。

興味のある方は、加藤百合 『明治期露西亜文学翻訳論攷』(東洋書店、2012年)をぜひ読んでください。
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比較文学会の報告会はいつも質疑応答が活発で、今日もたくさん質問やコメントが出され盛況だった。司会者が時計を見るのも忘れて質疑に夢中になってしまったため、予定を30分もオーバーしてしまった(反省)。

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2013年4月20日 20:35に投稿されたエントリーのページです。

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