竹内恵子 『廃墟のテクスト 亡命詩人ヨシフ・ブロツキイと現代』(成文社、2013年)が出版された。長年のブロツキイ研究の成果である。
それにしても「難解」と言われるブロツキイのモノグラフがこんなに面白いとは!
その理由はいくつも挙げられるだろう。
真摯な語り口。けっして独りよがりではなく、静かでありながら力強い。
なんといっても詩テクストの読解の面白さが際立っている。ブロツキイの経歴や作品全体、先行研究を知り尽くしたうえでの著者の自在な解釈を読んでいると、詩を解釈する「快楽」が感じられるかのようだ。
ブロツキイ作品のあちこちに埋め込まれているギリシャ・ローマのモチーフの解説もありがたい。
そして「廃墟」という魅力的なテーマ。
とくに圧巻は、第4章『「ローマ・エレジー」論』から第5章『ブロツキイによる「ローマ・エレジー」の自己翻訳について』だ。丹念な読みとそれに裏打ちされたトランスレーション・スタディーズのモデルケースと言えるだろう。