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2013年4月 アーカイブ

2013年4月 3日

『スラヴ文化研究』 第11号刊行される

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東京外国語大学ロシア語研究室主宰の学術雑誌 『スラヴ文化研究』 第11号が刊行された。
内容は以下のとおり。

【報告】
国際シンポジウム「にがよもぎの予言」 沼野恭子

【シンポジウム発表報告】
「ペレストロイカからソ連解体へ-過程と帰結」 塩川伸明
「ソ連崩壊20年のバランスシート-ロシアの世論調査結果から」 鈴木義一

【論文】
「Terror and Doublespeak―Shostakovich's Struggle against Stalin in the 1930's」 Ikuo KAMEYAMA(亀山郁夫)
「18世紀から19世紀前半のロシアの女性向け雑誌と女性読者」 中神美砂
「帝政ロシアのろうあ教育と社会史という地平-ソヴィエト期への連続性という視点から-」 白村直也
「ロマン・ヤコブソンの言語記号観-言語記号と対象との実質的な結びつき-」 朝妻恵里子
「ブルガリア語方言における定語の語順に関する一考察-ルーマニア・ブラネシュティ村の方言を例に-」 菅井健太
「リーディングに必要な語彙数-高頻度2,000語によるテキストカバー率をめぐって-」 佐山豪太

【エッセイ】
「モスクワ-グルジヤワインをめぐる断章」 髙橋淸治

2013年4月 8日

『廃墟のテクスト』

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竹内恵子 『廃墟のテクスト 亡命詩人ヨシフ・ブロツキイと現代』(成文社、2013年)が出版された。長年のブロツキイ研究の成果である。

それにしても「難解」と言われるブロツキイのモノグラフがこんなに面白いとは!
その理由はいくつも挙げられるだろう。
真摯な語り口。けっして独りよがりではなく、静かでありながら力強い。
なんといっても詩テクストの読解の面白さが際立っている。ブロツキイの経歴や作品全体、先行研究を知り尽くしたうえでの著者の自在な解釈を読んでいると、詩を解釈する「快楽」が感じられるかのようだ。
ブロツキイ作品のあちこちに埋め込まれているギリシャ・ローマのモチーフの解説もありがたい。
そして「廃墟」という魅力的なテーマ。

とくに圧巻は、第4章『「ローマ・エレジー」論』から第5章『ブロツキイによる「ローマ・エレジー」の自己翻訳について』だ。丹念な読みとそれに裏打ちされたトランスレーション・スタディーズのモデルケースと言えるだろう。

2013年4月20日

内田魯庵訳 『罪と罰』

本日4月20日(土)東京大学駒場キャンパスで日本比較文学会東京支部の4月例会がおこなわれた。筑波大学准教授の加藤百合さんが、内田魯庵の訳した『罪と罰』について興味深い研究発表をしてくださる。私は司会を務めさせていただいた。

ドストエフスキーの『罪と罰』が初めて日本語になったのは1892年。フレデリック・ウィッショーというイギリス人作家がロシア語から英語に訳してヴィゼッテリ社から刊行した英語版(1886)を、内田魯庵が日本語にした(未完だが)。つまり重訳である。

じつは、翻訳するにあたって魯庵はロシア語のわかる二葉亭四迷の協力を得ていた。
加藤さんは、ロシア語原文・ウィッショー版英訳・魯庵版日本語訳の3点を丹念に比べることで二葉亭の関与がどの程度だったのかという課題に肉薄した。その結果、ウィッショーがところどころロシア語をそのままラテン文字に直して英訳テクストに入れていたために魯庵がロシア語の意味を四迷に訊ねて確かめざるを得なかったこと、作品が進むにつれて四迷の協力が大きくなっていったことを突き止めた。
下手な謎解き小説よりよほど面白くワクワクする。

興味のある方は、加藤百合 『明治期露西亜文学翻訳論攷』(東洋書店、2012年)をぜひ読んでください。
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比較文学会の報告会はいつも質疑応答が活発で、今日もたくさん質問やコメントが出され盛況だった。司会者が時計を見るのも忘れて質疑に夢中になってしまったため、予定を30分もオーバーしてしまった(反省)。

2013年4月29日

国立大学の「国際化」に向けて切望すること

去る3月8日、国立大学協会は総会を開き、国立大学の国際化に向けて以下のような数値目標を発表した(まるで社会主義時代の計画経済のノルマのようだが)。

①受入留学生数の割合を2020 年までに学部と大学院合わせて10%にすることを目指す。
②派遣留学生数の割合を2020 年までに学部と大学院合わせて5%にすることを目指す。
③外国人教員比率を2020 年までに倍増させることを目指す。
④英語での授業実施科目数を2020 年までに学部、大学院ともに倍増させることを目指す。
⑤国際化に関連した数値目標を設定している大学数を2020 年までに倍増させることを目指す。

国立大学が「グローバル人材」を輩出するべきだとの認識は素晴らしいし、「積極的な国際交流と国際貢献活動の推進」を目指すべきだとの見解にもまったく異論はない。
しかし、日常的に国際交流に携わっている者として切実に願うことがある。それは、数字の辻褄を合わせるのではなく内実をともなう「国際化」を日本が本気で目指すのであれば、大学の自助努力にすべてを任せるのではなく、強力な国の支援体制がなければならないということである。

何よりも緊要なのは、外国人教員・研究者・学生を受け入れる体制基盤の整備、とりわけ住居を確保することである。それも、外国と比べて質的にひけをとらないグローバル・スタンダードの宿舎や寮を建設することが必要だと思う。これは個々の大学にできることではない。

国、文部科学省あるいは国立大学協会は即刻、全国の国立大学における外国人教員・研究者・学生の受け入れ体制の(かなり悲惨な)現状を調査し、外国人が「倍増」(!)しても対応できるよう必要度の高いところからどんどん宿舎を建設していくべきだ。
外国人を呼んだはいいが住むところは本人任せ、というのでは話にならない(初めて日本を訪れる外国人が、敷金、礼金、保証金、斡旋手数料等の支払いを要求される民間アパートを借りるのはきわめて難しい)。
逆に、人間らしい快適な住居を提供してこそ日本イメージはよくなり日本への貢献も期待できるようになるだろう。

3月8日の報告書を見ると、文部科学省を始めとする政府機関に「期待」することとして「国際化に関係する環境整備のための財政支援の拡充」「留学生宿舎の整備のための施設整備費補助の充実」という項目が挙げられているが、留学生の宿舎のみならず、ぜひとも外国人教員・研究者の宿舎も視野に入れた全面的な財政的支援を強く要望したい。


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左から森田耕司(本学ポーランド語)、マナトクリ・ムサタエワ(カザフスタン国民教育大学・本学の外国人研究者)、オリガ・アラーポワ(本学ロシア語・特定主任外国語教員)、島田志津夫(本学中央アジア)、小松久男(本学中央アジア)の各氏と会食。使用言語は主にロシア語だった。

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