2011年にロシアで刊行され、1年の間に110万部も売れた本がある。
Архимандрит Тихон ≪Несвятые святые≫ и другие рассказы. Олма Медиа Групп, Сретенский монастырь, 2012.
チーホン掌院 『「聖ならぬ聖者たち」とその他の物語』
「掌院」とは高位にある修道司祭のことをいい、チーホンは、モスクワのスレチェンスキー修道院の副院長である。タイトルが святые と не-святые の言葉遊びになっている。
ここに収められているのは、チーホン自身の経験したことや、修道士・信者・その関係者らから聞いた逸話の数々である。要するに「聖者伝」あるいは「宗教説話」集といったところだ。
例えば、吟遊詩人であり国民的な作家だったブラート・オクジャワの話。
オクジャワの奥さんオリガがイオアン神父のところに来て「ブラートが洗礼を受けようとしないんです」と訴えた。神父が「あなたが洗礼してしまえばいい」と答えるので、オリガが「ブラートという名前では正教徒らしくない」と言うと「イワンと名づけなさい」と神父は言って立ち去った。
それから15年ほどしてオクジャワがパリで亡くなる直前、急に「洗礼を受けたい」と言い出した。オリガが「なんていう名前にする?」と聞くとブラートは「イワン」と答えたので、オリガが洗礼を与えた。
オリガは後になって、イオアン神父の言ったことを思い出したという。
ごく短いエピソードだ。
世俗に生きる私などは「偶然の一致」と考えるが、きっと「神様の示された奇跡」だと捉える人もいるだろう。