« 亀山学長特別講義 | メイン | ロシア語リアルフレーズ »

粒ぞろいの修士論文

今回、同僚の前田和泉先生と私が指導教員ならびに副指導教員を務めた院生3人の提出した修士論文は、どれもレベルが高く粒ぞろいだったのでとても嬉しい。

① 笹山啓 「2つの『虹の奔流』― ヴィクトル・ペレーヴィン作品における仏教思想と一元論的思考」
② 原真咲 「М.А.ブルガーコフ『白衛軍』の色彩論」
③ 山田有佐子 「テフィのユーモア」

①は、現代ロシアの作家ペレーヴィンの作品をチベット密教との関連から読み直し、ペレーヴィンを「ポスとモダニスト」と見なす固定観念を相対化しようとしたもの。『チャパーエフと空虚』(1996)に登場する「虹の奔流」というモチーフが『妖怪の聖典』(2004)にふたたび現れることに着目し、この2つの「奔流」の間に何が起こったのか、スリリングに叙述している。

②は、ブルガーコフの「歴史小説」である『白衛軍』を、色彩のシンボリズムを切り口としてフォークロア分析の手法で考察したもの。ロシア革命直後の複雑な情勢をきちんと整理するとともに、ロシア語、ウクライナ語、ポーランド語の多言語状況を丁寧に読み解いたところは、多言語・多文化の共生をめざす本学ならではの研究と言える。

③は、亡命作家ナジェージダ・テフィの短編群のユーモアを分類し、その変遷を考察し彼女のユーモアの本質に迫ったもの。現状把握、仮説、分類作業、結論とすべてが論理的に構築されているため、読んでいて知的に小気味よい。後半に付された資料集も迫力があり、今後日本でテフィ研究をする際の重要な文献となるだろう。

Надежда Тэффи ナジェージダ・テフィ(1872-1952)
 ↓
teffi.png

About

2013年2月16日 14:42に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「亀山学長特別講義」です。

次の投稿は「ロシア語リアルフレーズ」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。