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バスク語作家キルメン・ウリベ

11月6日(火)東京外国語大学にバスク語作家キルメン・ウリベを迎えて講演会がおこなわれた。彼の小説が最近日本語に翻訳されたばかりだ。
キルメン・ウリベ 『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』 金子奈美訳(白水社、2012)


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訳者の金子さんは、外大博士後期課程に在籍しバスク文学を研究している院生。
スペインとフランスにまたがる地方で話されているバスク語による作品を、しなやかで艶のある日本語に移し、チャーミングな作家を日本に紹介してくれた。

まずはウリベによるバスク語をめぐる講演。
シマガツオが美しい聖母マリアに出会いスペイン語で話しかけたら、マリアは「どうしてバスク語で話さないの?」と怒って呪いをかけ、世界でいちばん醜い魚にしてしまったという。バスクの人々が自らの言葉にどれほど誇りを持っているかを示すユニークな伝説だ。

それからバスク語による詩の朗読、今福龍太さんの加わった座談会と続いた。
今福さんは、『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』では「偶然」が物語の原動力になっている、これは「見えない小説」についての小説、つまりこれから書こうとしている作品のプロセスだけが書かれている小説だと指摘。
ウリベは、近年ブログやフェイスブックなど1人称で素早く書くようになったが自分はそうした新しい言語のあり方を模索している、『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』を1人称で書いたのはフィクションに対する批判があったなどと語った。

小説の中で、語り手が15世紀の画家ジョヴァンニ・ベリーチの絵に言及しているところがある。語り手はその作品の片隅に描かれた紙片に注目している。その紙片にベリーチと書かれ、つまり作者自身の名前が絵の中に登場しているからだ。
それで私は、『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』の中にも作者自身の名前が登場しているところがあるにちがいないと思い、もう一度最初から本のページを繰ってみたら、語り手に宛てて送られたメールが引用されている場面で宛名が「キルメン・ウリベ」となっていた。ウリベはベリーチに倣い、中世の紙片を現代のメールに変えて自らの名を作中に滑り込ませていた!

じつに楽しい充実した講演会だった。


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左から今福龍太、キルメン・ウリベ、金子奈美の各氏。

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2012年11月11日 00:48に投稿されたエントリーのページです。

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