嬉しいことに、今年になってから続々とロシアの現代小説が日本語に翻訳・紹介されている。ともかく列挙しよう。
Василий Гросман. Жизнь и судьба.
ワシーリー・グロスマン 『人生と運命』齋藤紘一訳(みすず書房、2012)
1月から3月にかけて1巻ずつ刊行され、「20世紀版『戦争と平和』」とも言われるこの大著の邦訳全3巻がついに出そろった。
グロスマン(1905-1964)は、第二次世界大戦の最大の激戦だったスターリングラード戦に記者として従軍。その経験をもとに1960年『人生と運命』を完成させたが、たちまちКГБによって原稿を没収された。しかし奇跡的に原稿のコピーが国外に持ち出され、1980年にスイスで出版された。ナチスドイツとスターリンのソ連という2つの全体主義国家のはざまにあって、自由と人間性をぎりぎりの線まで守ろうとした人たちを中心とする圧巻の歴史ドラマである。
グロスマン
Вениамин Каверин. Два капитана.
ヴェニアミン・カヴェーリン 『二人のキャプテン』入谷郷訳(郁朋社、2012)
カヴェーリン(1902-1989)は、1920年代に「セラピオン兄弟」という文学グループに属して幻想小説を書いていた作家。
『二人のキャプテン』は1938年から1944年の間に書かれた。北極探検で遭難した船長の謎を解き明かそうとする主人公サーニャの恋と冒険の物語。
カヴェーリン
Саша Соколов. Между собакой и волком.
サーシャ・ソコロフ 『犬とオオカミのはざまで』東海晃久訳(河出書房新社、2012)
ソコロフ(1943年生れ)は1975年に亡命し、翌年アメリカで『馬鹿たちの学校』を出版。この作品もすでに訳されている。サーシャ・ソコロフ 『馬鹿たちの学校』東海晃久訳(河出書房新社、2010)。
ソコロフは、よくナボコフやベールイとの類縁性が指摘される。複雑で実験的、難解、メタ文学的と言えるだろう。訳者の親切な訳注がたくさんあってありがたい。
ソコロフ
Владимир Сорокин. Глубое сало.
ウラジーミル・ソローキン 『青い脂』望月哲男・松下隆志訳(河出書房新社、2012)
ソローキン(1955年生れ)は、変幻自在の文体模倣術と激烈な想像力を持ち合わせた、まさに現代ロシア文学のモンスター。「未来語」で書かれたこの「未来小説」を本当によくぞ日本語にしてくれたものだ。訳者のおふたりに脱帽!
ソローキン