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レーピンの肖像画

過日、渋谷 Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の 『国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」を見てきた。

Илья Репин イリヤ・レーピン(1844-1930)
1870年代よりいわゆる「移動派」画家として活躍。社会的弱者を描いた代表作として「ヴォルガの船曳き」がある。

今回の展覧会を見て、レーピン作品の中でも特に迫力があるのはやはり人の表情だと思った。苦しそうな顔、自信に満ちた顔、怒った顔、悩ましげな顔。複雑な陰影に富んだ表情は、よほどの洞察力と包容力と技術がなければ描けない。


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私はやはり当時の文化人たちの肖像とそのたたずまいに惹かれる。
上はモデスト・ムソルグスキー。ご存じ 『展覧会の絵』で知られる作曲家だ。亡くなる10日くらい前の、アルコール中毒に苦しみ虚ろな目をしたムソルグスキー。
レーピン展から戻り、ムソルグスキー追悼のつもりで『展覧会の絵』の「プロムナード」や「バーバ・ヤガー」をピアノで弾いた。


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こちらはレフ・トルストイ。
レーピンはトルストイの領地ヤースナヤ・ポリャーナに滞在し、生活をともにしながら被写体をつぶさに観察したようだ。真剣なまなざしのトルストイ。人生に対する姿勢そのもののような、真剣な表情。
でも、この作品が描かれたのは1887年で、すでにトルストイがあらゆる芸術に価値を認めなくなっていた頃だ。トレチャコフ美術館学芸員のガリーナ・チュラクによると「文豪がその圧倒的な才能を傾けて伝道師の情熱をもって示した独自の『トルストイ哲学』を、レーピンが受け入れることはなかった」という(「イリヤ・レーピン―『爆発する無限のエネルギー』を持った画家―」鴻野わか菜訳、展覧会カタログ p.19)。


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これはパーヴェル・トレチャコフ。ロシア有数の文化メセナにして、トレチャコフ美術館の創設者。何と言っても、画面のほぼ中央に位置する彼の長い指が印象的だ。トルストイのごつごつした「農民のような」手と比べると、トレチャコフの手の繊細さがいっそう鮮明になる。

最後に大ニュース!
展覧会カタログの最後のほうに付されている「イリヤ・レーピン日本語文献」に、沼野恭子研究室編 『クリトゥーラ』(創刊号)所収の井木優里さんのレーピンに関する記事が文献として挙げられている。


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    レーピン 『自画像』

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2012年8月22日 21:38に投稿されたエントリーのページです。

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