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ロシア文化ゼミ 「奥の細道」を行く

3年ゼミ生たちと合宿に行く。仙台から松島、石巻、一関と、まるで芭蕉の『奥の細道』をたどるような旅程だった。

仙台で牛タンを堪能し、宮城県美術館でカンディンスキーの作品を4点鑑賞。ゼミで勉強したことを復習するかのように、最初期のリアリズム作品『水門』から民話風の作品『商人たちの到着』、そしていかにもカンディンスキーらしい鮮やかな色彩の抽象画『カーニバル・冬』、やがて音楽をモチーフにした五線譜にさまざまな可愛らしい幾何学模様が組み合わさった後期の『活気ある安定』へと画風の変化を追うことができた。


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 『カーニバル・冬』 (宮城県美術館所蔵)


松島では遊覧船「仁王丸」でクルージング。みんなはカモメと戯れていたが、猛暑でバテ気味の私はひとり船内で涼を取っていた。「私はカモメ」?


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石巻では車を借りて海岸と漁港を見に行き、山と積まれた自動車のスクラップが延々と続いているさまに圧倒され胸を痛める。復興にはまだ相当の時間と資金と忍耐力が必要だということを痛感する。
「『国破れて山河あり、城春にして草青みたり』と、笠うち敷きて、時の移るまで涙を落としはべりぬ。
  夏草や兵どもが夢の跡」

宿では、各自「お勧め」の本を1冊ずつ紹介するという趣旨の読書会をした。ほぼ全員がレジュメを作って人数分コピーを用意してきてくれたので感心! イーブリン・ウォー『回想のブライズヘッド』、ジェローム・サリンジャー『フラニーとゾーイー』、夏目漱石『夢十夜』、吉本ばなな『うたかた』、長野まゆみ『月の船でゆく』等々、バラエティに富んだ作品紹介になった。
90分の授業では見られない長い映画を観ようということでタルコフスキー『ストーカー』の鑑賞会もおこなう。

今回、瑞巌寺、中尊寺、毛越寺(いずれも円仁の開いた天台宗の寺)のお寺を3つ、仙台、石巻、一関のハリストス正教会を3つ訪れた。仏教とロシア正教、いずれも荘厳の中に華麗な風情がある点では共通しているが、3次元の仏像と2次元のイコンの違いが醸し出す印象の違いは著しい。


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これは一関ハリストス正教会。ここには、イコン画家だった山下りん(1857-1939)の作品が日本で最も多く残っている。聖堂の中も見せていただき、貴重なお話を伺うことができた。
山下は1881年ロシアに渡り、サンクトペテルブルグの女子修道院でイコンの描き方を学んだ。エルミタージュ美術館に通い、遠近法のある、つまり3次元的なイタリア絵画の模写に熱中したが、やがて体調を崩し5年予定していた留学を2年に切り上げて帰国。
りんは2次元的なイコンでは飽き足らなかったのかもしれない。


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  山下りんのイコン(一関ハリストス正教会)

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2012年7月29日 13:53に投稿されたエントリーのページです。

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