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ロシアのセレブ小説

最近「гламур (グラムール)」という言葉をよく見かける。英語のglamour(怪しい魅力、魅惑)から来たもので、裕福で贅沢な生活を象徴する言葉として用いられるようになった。ヴィクトル・ペレーヴィンの長編 『Empire V』 には、「グラムールとは金(かね)を介して表されるセックスのこと、なんならセックスを介して表される金のことと言ってもいい」と語る人物が登場する。

こうしたグラムールな生活を題材にして小説を書き人気を博しているのが Оксана Робски オクサーナ・ロプスキ(1968年生れ)だ。2007年、モスクワの高級住宅地ルブリョフカで起きた殺人事件をめぐる推理小説仕立てのセレブ小説 『Casual』 でデビューした。
この本が売れたのは、セレブたちがいったいどんな生活をしているのか覗いてみたいという人々の世俗的な好奇心のためと言われており、その点では、かつて日本で田中康夫の 『なんとなくクリスタル』 がベストセラーになった現象を思い起こさせる。


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2008年にロプスキが出した小説 『Эта Тета』 もやはり舞台はルブリョフカだが、こちらは、異星人がやってきてグラムールな地球人に愛と生殖の方法を学ぼうとするという突拍子もない物語になっている。異星人たちはやがて食事のカプセルをセレブたちに「ダイエット食品」として途方もない値段で売りつけたりするから可笑しい。

ロプスキ自身がセレブで、華麗なキャリアの持ち主である。モスクワ大学ジャーナリズム学科を卒業し、女性ボディガードの会社を立ち上げ、高級家具のネットサロンを経営している。恋愛・結婚遍歴もかなり派手なようで、そうした著者のプライべートな面が話題作りに一役買っていることは間違いない。

彼女は、小説を書くのはお金のためだと公言して憚らない。本を出すというのは娯楽でも道楽でもなくビジネスなのだという。
ロシア文学も変わったものだ(これが名高きグローバリゼーション??)。

でもセレブへの興味と私生活のスキャンダルだけでいつまでも読者を繋ぎ止めておくことはできないだろう。
このところロプスキが新しい本を出していないのはどうしたことだろう。出版市場を驚かす次の戦略でもじっくり考えているのだろうか。


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  オクサーナ・ロプスキ

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2012年6月23日 17:36に投稿されたエントリーのページです。

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