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『悪口学校の料理』

2002年よりロシアで放送されているテレビ番組に 『Школа злословия(悪口学校)』というトークショーがある。毒舌家として有名な作家タチヤーナ・トルスタヤとシナリオライターで映画監督のアヴドチヤ・スミルノワが聞き手となり、ゲストをスタジオに呼んで話を聞き、歯に衣着せぬ物言いで鋭く切り込むという趣旨の番組だ。タイトルは、アイルランドの劇作家リチャード・シェリダン(1751-1816)の代表作『悪口学校」にちなんでいる。

開始から2年経ったとき、トークの一部とそれぞれのゲストが好きな料理のレシピを組み合せた『悪口学校の料理』という本が出た。Авдотья Смирнова, Татьяна Толстая. Кухня "Школы злословия". М.: Издательство Кухня, 2004.
それがこちら。
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Avdotya_Smirnova_Tatyana_Tolstaya__Kuhnya_Shkoly_zlosloviya.jpg


ここには、作家、詩人、政治家、映画監督、心理学者、弁護士、画家、評論家、ジャーナリストなど合計67名のロシアの文化人が文字どおり「俎板に載せられている」。つまり、実際にレシピが食欲をそそる写真と一緒に掲載されているだけでなく、ゲスト自身も料理されているのである。
ゲストとして呼ばれたのにふたりの「減らず口」(?)に怒ってスタジオから出て行ってしまった人もいるという。

私が読んで面白かったのはやはり詩人や作家の話だ。彼らがどんな料理を好んでよく口にするかというのも興味深い。
アレクサンドル・クシネル(詩人)の好きな料理は、肉とタマネギとゆで卵入りのピロシキ。彼の詩に「私には生が悪夢よりも恐ろしい夢に感じられた」という一節があり、スミルノワがそれを引いて「監獄にいたことも流刑されたこともなく、詩集がたくさん出ていてブロツキーに激賞されている人がどうしてこういう詩を書くのか?」と質問したのに対して、「裏切り、許すことのできない自分自身の落ち度、人々の苦しみ、愛の苦しみ、父の死。人には絶えず試練が待ち受けている」と答えている。

この後スタジオに残ったトルスタヤとスミルノワの掛け合いが可笑しい。
スミルノワ 「クシネルさんは年とってプーシキンに似てきたわね」
トルスタヤ 「ほんとにそうね」
スミルノワ 「頬髭をつければ」
トルスタヤ 「もう他に何もいらない」
スミルノワ 「メガネをはずせば」
トルスタヤ 「そう、メガネ。でも、プーシキンがメガネをかけたところを想像するのは簡単。何でもいいのよ、プーシキンは。ともかくプーシキンは私たちのすべてだもの」

ああ、相変わらず、いつまでも、永遠にスターであり続けるプーシキン!

エヴゲーニイ・グリシコヴェツ(俳優、演出家、作家)の好きな料理は、ゴルゴンゾーラのスパゲティ。ひとり芝居でカルト的な人気を博したグリシコヴェツは、「舞台で演じるというのはほぼ2時間の生を生きるということに等しい。もちろん見に来た人が僕を愛してくれ、笑ってくれることを望んでいる。やっかまれるのはすごく嫌だ」と語っている。

ヴィクトリヤ・トーカレワ(作家)の好きな料理はオーブンで焼いたジャガイモ入りポルチーニ茸。人気ユーモア作家は、ロシア文学における自分の位置を「ドヴラートフ、チェーホフ、イスカンデル、トリーフォノフと同じ系列」と自覚している。
チュクチ人のユーリイ・ルイトヘウが作家になったきっかけについてトーカレワが、「授業中に悪戯をして教室から追い出されたルイトヘウが別の教室のゴーゴリの授業をドア越しに聞いて打ちのめされたのがきっかけなんですって」と話すと、トルスタヤがすかさず「神様だか摂理だか運命だか知らないけれど、それに導かれたのね」と応じている。


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2012年5月12日 12:04に投稿されたエントリーのページです。

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