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『ロシア語史入門』

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日本の誇るロシア語学者・佐藤純一東大名誉教授の最新の著書 『ロシア語史入門』(大学書林、2012)は、ロシア語関連のアカデミックな仕事をする者にとって必携書である。
佐藤先生は、東京外国語大学を卒業後、東大大学院に進まれ、1961年から2年間東京外国語大学で教鞭を取り東大に移られた。専門はロシア語の記述文法、標準語史、スラヴ諸語の比較対照研究。

本書は、大きく2部に分かれている。
第1部では、スラヴ諸語の中にロシア語を位置づけ、ロシアにおける標準語の発達を時代順に追っている。第2部では、キエフ・ルーシの最古の文献である 『オストロミール福音書』(11世紀)から『原初年代記』、『イーゴリ遠征物語』、『主僧アヴァクム自伝』などを経て、カラムジンの 『ロシア人旅行者の手紙』(18世紀末)に至るテクストが引用されている。ほとんどが現行のキリル文字に直されているので、私のような素人でも一応「読める」うえ、ロシア語がしだいに変化してきた様がわかって大変興味深い。

あちこち拾い読みしていてあらためて思ったのは、Николай Карамзин ニコライ・カラムジン(1766―1826)がロシア語史で果たした役割と 二葉亭四迷(1864-1909)が日本文学史に残した功績がとても似ているということだ。
権威的な書き言葉と世俗的な話し言葉に分かれていた18世紀末のロシアにおいて、カラムジンは「話すように書く」といういわゆる言文一致を目指して紀行文や小説(とくに 『哀れなリーザ』1792)を書いた。19世紀後半の日本で、二葉亭もイワン・トゥルゲーネフなどを翻訳する過程で書き言葉を話し言葉に近づける努力をし、彼の小説 『浮雲』 は言文一致小説と言われる。
面白いのは、カラムジンが参照したのは当時のロシアに多大な影響を持っていたフランス語だったけれど、二葉亭が依って立った言語はロシア語だったということ。フランス語→ロシア語→日本語という文化の連鎖がある。

言ってみれば、二葉亭四迷は日本のカラムジンなのだ。

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2012年4月21日 13:16に投稿されたエントリーのページです。

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