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2012年3月 アーカイブ

2012年3月 4日

中澤英彦先生最終講義

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3月3日、東京外国語大学の誇るロシア語学の泰斗 中澤英彦先生が研究講義棟115教室で最終講義をしてくださった。題して「時を紡ぐ――竹の顰(ひそみ)に倣って」。

教室は、同僚や教え子や学生で満員だった。
私も不肖の弟子。もちろん「弟子」というのは自称だが、東京外国語大学で若かりし助手の中澤先生がロシア語を教え始められたちょうどその年に大学1年生になり、先生にロシア語の手ほどきを受けた。

講義は、長年研究してこられたロシア語動詞のアスペクトについて。
始まりも終わりもない時間の流れに「竹の節」のような「区切り」をつけることをイメージすれば、完了体を感覚として捉えるのに有効なのではないかとされ、ご退官を「区切り」であることと重ねられた非常にウィットに富むお話であった。ご自身の仕事を「未完の完了体」であると締めくくられたが、まさに「他のものに寄りかかって生えることをしない竹」と先生の学問の姿勢には相通ずるものが感じられる。そう、先生は竹であられたのだ。
いつまでたっても完了体と不完了体の区別に悩まされている私にとって、今日のお話は啓示のようでもあった。

中澤先生、40年近くにわたって教鞭を取られ、本学の(そして日本の)ロシア語教育に多大な貢献をしていただき、本当にありがとうございました!

2012年3月 5日

【お知らせ】 ダブル・シンポジウム

東日本大震災、福島第1原子力発電所事故から1年になる今月は、関係するシンポジウムがふたつ、いずれも原発をテーマにする。

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国際シンポジウム「にがよもぎの予言―チェルノブイリの悲劇とソ連崩壊20年」
(亀山科研「ポスト・グローバル時代から見たソ連崩壊の文化史的意味に関する超域横断的研究」)

日時:2012年3月20日(火)13:00~17:30
会場:東京外国語大学プロメテウス・ホール 入場無料
総合司会:沼野恭子

第1部「チェルノブイリ、今」
・基調講演 セルゲイ・ミールヌイ(作家、ジャーナリスト)
      通訳:中神美砂
・映画上映「小さき人々の記録」(監督:鎌倉英也、2000年)
第2部「ソ連崩壊20年を考える」
・亀山郁夫(東京外国語大学長 兼司会)
・塩川伸明(東京大学教授)
・鈴木義一(東京外国語大学教授)
・沼野充義(東京大学教授)

問い合わせ:鈴木義一研究室 rus-symposium2012@tufs.ac.jp

タイトルは新訳聖書「ヨハネの黙示録」に由来する。黙示録にこう記されているのだ。なおчернобыль(チェルノブイリ)も полынь(ポルィニ)も「にがよもぎ」を意味する。

"Третий ангел вострубил, и упала с неба большая звезда, горящая подобно светильнику, и пала на третью часть рек и на источники вод. Имя сей звезде ≪полынь≫; и третья часть вод сделалась полынью, и многие из людей умерли от вод, потому что они стали горьки" ≪Откровение Святого Иоанна Богослова≫ 8-10.11.

「第三の天使がラッパを吹いた。すると、松明のように燃えている大きな星が、天から落ちてきて、川という川の三分の一と、その水源の上に落ちた。この星の名は『苦よもぎ』といい、水の三分の一が苦よもぎのように苦くなって、そのために多くの人が死んだ」 「ヨハネの黙示録」8の10.11. (日本聖書協会訳)
 
人々に災いをもたらす星「にがよもぎ」が天から落ちてくるという不吉な予言。1986年にチェルノブイリ(にがよもぎ)原発事故が起きたとき、この予言が大いに取り沙汰されたものだ。
私たちはこの少し先まで読んでおくべきだろう。
「これらの災いに遭っても殺されずに残った人間は、自分の手で造ったものについて悔い改めず、なおも、悪霊どもや、金、銀、石、木それぞれで造った偶像を礼拝することをやめなかった」

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もうひとつは、日本ペンクラブ女性作家委員会・東京外国語大学亀山科研共催シンポジウム「女性と原発」
 
日時:2012年3月24日(土) 13:30開場 14:00~16:00
会場:東京ウィメンズプラザ
参加費:500円

総合司会:宇澤美子(慶應大学文学部教授・英米文学者)
開会挨拶:下重暁子(日本ペンクラブ副会長・作家)
出演:中島京子(作家)
   萩尾望都(漫画家)
   小林エリカ(作家・漫画家)
   沼野恭子
特別出演:セルゲイ・ミールヌイ(作家・ジャーナリスト)
コーディネーター:小谷真理(女性作家委員会委員長・評論家)

2012年3月16日

【お知らせ】 シンポジウム「女性と原発」会場の変更

3月24日(土)に開催される日本ペンクラブ女性作家委員会・東京外国語大学亀山科研共催
シンポジウム「女性と原発」の会場が「こどもの城」に変更された。
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今回招聘する Сергей Мирный セルゲイ・ミールヌイ(1959年生れ)は、1986年チェルノブイリ事故直後に爆心地付近で放射線測定部隊の指揮をとり、その後も原発事故の社会的影響を研究しているウクライナの作家である。自身の体験をもとに書いたドキュメンタリー小説が Сергей Мирный. Живая сила: Дневник ликвидатора. М.: Эксмо, 2010.(『生命力:リクヴィダートルの日記』)、シナリオが Ликвидаторы: Чернобыльская комедия. М.: Эксмо, 2011.(『リクヴィダートルたち:チェルノブイリのコメディ』)だ。
「リクヴィダートル」とは「清算する人、一掃する人」のこと、つまり原発事故処理に携わった人を指している。

なおミールヌイ氏は、日本滞在中に福島を訪れ、福島大学で講演を行う。

福島大学うつくしまふくしま未来支援センター・東京外国語大学共催
講演会「チェルノブイリ放射能事故――被害の緩和と克服の道」

講師:セルゲイ・ミールヌイ
日時:3月22日(木)13:00~15:00
会場:福島大学M2教室
問合せ先:清水修二(福島大学)
Tel 024-548-5183 gfukugaku@adb.fukushima-u.ac.jp

 


2012年3月26日

門出

シンポジウムの嵐のような1週間が過ぎ、今度は門出の週だ。
今日は、院生たちの門出を祝って祝杯をあげた。
ボリス・アクーニンの作品における「死のイメージ」について修士論文を書き、修士号(文学)を取得した神田智子さん(右から4番目)。
『新潟日報』に就職が決まっている。おめでとう!


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他に、4月からロシアに留学する人、ロシア語非常勤講師になる人、将来を模索している人といろいろ。それぞれの道を見つけて頑張ってほしい。

2012年3月28日

最高の幸せ!

3月26日(月)卒業式の夜、都内某ホテルでロシア語科のパーティがおこなわれた。
卒業生の皆さん、卒業おめでとう!

素晴らしい夜景、行き届いた式次第――幹事さん、ご苦労様でした。
ゼミ生の大部分も参加してくれ、楽しい語らいのひとときを持つことができた。
何と言っても嬉しかったのは、みんなで絵付けをしたというマトリョーシカやワインをプレゼントしてくれたこと。手作りマトリョーシカの素敵なこと! ワインは、次にみんなで集まるときのために大事にとっておくつもり。

ウリツカヤの小説 『ソーネチカ』 には、主人公のソーネチカが「とっておきのセリフ」を呟く場面がある。「なんてこと、なんてこと、こんなに幸せでいいのかしら....」。私も昨日はまったく同じ気持ちだった。

ありがとう! そして、みんなの巣立ちを心から祝福します!


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サクル・リュス (ロシアの祭典)

来る4月27日(金)から5月5日(土)まで東京・丸の内と東京国際ファーラムで、第8回「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(熱狂の日)2012」音楽祭 がおこなわれる。今年はロシア音楽の大特集で、「サクル・リュス(ロシアの祭典)」と題されている。「ロシアの祭典」とは、もちろんストラヴィンスキーのバレエ「春の祭典」にあやかったもの。

下はその公式ポスターだが、この6人、だれだかおわかりになるだろうか?


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左からリムスキー=コルサコフ、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチである。

「ラ・フォル・ジュルネ」は1995年にフランスのナントで始まったクラシックの音楽祭で(芸術監督ルネ・マルタン)、2005年に日本上陸。毎年テーマとなる作曲家やジャンルが設定され、今回は「ロシア音楽」になったというわけだ。
今年は約350ものコンサートが用意されているという。とくにゴールデンウィークの5月3日(木)から5月5日(土)にかけてが「コア」の企画とされる。国内外の一流演奏家たちを招き、原則として1回45分間のコンサートを朝から晩まで催すらしい。
 ↓
http://www.lfj.jp/lfj_2012/about/article_01.html?id=nav


「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」では子供のための企画も充実している。
5月4日(金)16:00からの「ロシアのお話と音楽」というキッズ・プログラムをお手伝いすることになった。

2012年3月30日

『大学のロシア語』

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同僚たちと約2年の歳月をかけて作成してきたロシア語教科書がようやく完成し、この度刊行の運びとなった。
匹田剛、前田和泉、イリーナ・ダフコワ、沼野恭子 『大学のロシア語』 (東京外国語大学出版会、2012、全286ページ)。

主として東京外国語大学の1年目の学生のために書かれたものだが、じつを言うと、完成したのはまだⅠ巻(基礎力養成テキスト)だけで、Ⅱ巻(実力が身につくワークブック)は鋭意準備中。2冊の役割分担は、Ⅰ巻が文法編、Ⅱ巻が実践編である。

本書Ⅰ巻のコンセプトは、ロシア語文法をできる限り丁寧にわかりやすく説明するというもの。「複雑に絡みあう蔓草のように見える文法項目を一本一本解きほぐし、丁寧に説明して」ある(「はじめに」より)。
また、項目ごとに練習問題を置いて要点の定着を図っているので、独習者の方にもお使いいただけると思う。

東京外国語大学生協で限定販売される。

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