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2011年12月 アーカイブ

2011年12月 3日

パステルナークの『ロミオとジュリエット』

ロシア語劇団「Концерт コンツェルト」が下の日程で 『Ромео и Джульетта ロミオとジュリエット』 をロシア語で上演する。守山真利恵(東京外国語大学ロシア語科3年)演出。会場は早稲田大学学生会館 B203。

2011年12月23日(金)  13:00  19:00
      24日(土)  13:00  19:00
      25日(日)  15:00
     

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シェイクスピアの原作をロシア語に翻訳したのは、Борис Пастернак ボリス・パステルナーク (1890-1960)。運命によって結びつき運命によって引き裂かれた男と女の愛を謳いあげた長編 『ドクトル・ジバゴ』で知られる作家・詩人である。
パステルナークは1930年代半ばから、グルジアの詩人たちの詩作品、ゲーテの『ファウスト』、シェイクスピアの悲劇などたくさんの文芸作品をロシア語に翻訳した。とくに、シェイクスピアは『ロミオとジュリエット』の他に『オセロ』『リア王』『ハムレット』なども手がけている。
そういえば、グリゴーリイ・コージンツェフ監督が映画化した『ハムレット』でもパステルナークの翻訳が使われていた。ちなみにこの映画は、翻訳がパステルナーク、音楽を担当したのがドミートリイ・ショスタコーヴィチ、主演がインノケンティ・スモクトゥノフスキーという夢のような組合せで1964年のヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞している。

さて、われらがコンツェルト劇団はどのような『ロミオとジュリエット」を見せてくれるのだろう。とても楽しみ!

2011年12月10日

世紀の恋人

先日、イラン・デュラン=コーエン監督の映画『サルトルとボーヴォワール 哲学と愛』を観にいった。言わずと知れた「世紀の恋人」ジャン=ポール・サルトルとシモーヌ・ボーヴォワールという実存主義哲学者ふたりの愛の軌跡を描いた作品だ。
ボーヴォワールに扮したアナ・ムグラリスの気品ある美しさは、ニコール・キッドマンを思わせる。アナはヤン・クーネン監督の『シャネル&ストラヴィンスキー』ではココ・シャネルを演じていた。「知的な女性芸術家」がはまり役なのだろう。


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サルトルとボーヴォワールは1929年に出会い、「自由」を何よりも優先させた事実婚を実践する。
興味深いのは、映画にも描かれているとおり、1930年代の数年間、ロシアからの移民オリガ・コザケーヴィチといわゆる三角関係にあったことだ。クローディーヌ・セール=モンテーユの『世紀の恋人 ボーヴォワールとサルトル』(門田眞知子・南知子訳、藤原書店、2005)によると、オリガは「極めて風変わりな少女」で「夢想することだけが好きな彼女は働くという考えすら軽蔑していた」という。

1920~30年代のパリと言えば、亡命ロシア文化の拠点のひとつで、イワン・ブーニン、ボリス・ザイツェフ、イワン・シメリョフ、ウラジーミル・ナボコフらが活躍していた。ちなみに、当時の亡命ロシア文化人たちについては、ニーナ・ベルベーロワが『Курсив мой 強調は筆者』というタイトルの優れた回想録を残している

1900年に出会い、それ以来公私にわたって支えあったロシア・アヴャンギャルド芸術家カップルであるナターリヤ・ゴンチャローワとミハイル・ラリオーノフもパリに住んだ。1915年にセルゲイ・ディアギレフに請われて「バレエ・リュス」の舞台美術を担当するためパリに行って以来、ふたりはついにロシアに戻ることがなかった。
「世紀の恋人」という形容は、じつはこのふたりにこそふさわしいと私はひそかに思っているのだが。

2011年12月11日

ロシアの前衛ジャズ奏者レートフ

12月10日(土)ロシアの前衛ジャズの第一人者 Сергей Летов セルゲイ・レートフをゲストに渋谷アップリンクでおこなわれたトーク&ライブ『ロシア・ジャズ再考/復活祭』に行ってきた。
1956年に生まれ、1980年代初めからロシア前衛ジャズを牽引してきたレートフは、サックス、フルート、クラリネット等を自由に操るマルチリード奏者だ。即興演奏を主体とし、さまざまな芸術ジャンルを軽やかに渡り歩いて多彩なコラボレーションを繰り広げている。
その驚異的とも言える活動の一端が、前半は映像を交えたトークで、後半はロシアの詩人オーシプ・マンデリシュタームの『アルメニア』を主題としたライブで紹介された。


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レートフの活動は本当に多岐にわたっている。
ライブ活動の他に、演劇関連では、タガンカ劇場で上演されたヴェネディクト・エロフェーエフ原作の『Москва-Петушки(邦題は「酔いどれ列車モスクワ発ペトゥシキ行)』や『マラー/サド』に音楽を提供したり、チェロヴェーク(人間)劇場の不条理演劇で自ら天井で(!)演奏したり。舞踏や詩とのコラボレーションも盛んにおこなっている。
最も面白かったのは、ロシア文学者でレートフの友人にしてクラリネット奏者でもある鈴木正美さんが紹介してくださった『エロスと権力』というパフォーマンスだ。クレムリンや指導者たちの映像が流れているところにライブペインティングが重ねられ、ウラジーミル・ソローキンの小説『Сахарный Кремль 砂糖のクレムリン』の朗読とレートフの即興演奏がコラボレートされていた!
その他、レートフはロシアの非公式アーティストたちとのつながりも深く、モスクワ・コンセプチュアリストのパフォーマンスに参加しているという。

構成・河崎純(コントラバスが素晴らしかった!)、司会進行・鈴木正美、通訳・上田洋子の各氏のおかげで、じつに楽しく充実した夕べだった。

2011年12月19日

『東京物語』

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『東京物語』といっても小津安二郎の映画ではなく、「ロシア語通訳協会」発行のロシア語ガイドブックである。できたてのほやほやだ。タイトルは『Токио Моногатари - Токио глазами токийцев. История и современность トーキョー・モノガタリ ― 東京人の見た東京。過去と現代』。
このタイトルが秀逸だと思うのは、日本の古典文学が多く訳されているロシアでは、ジャパノロジストたちが『Исэ-моногатари イセ・モノガタリ』『Ямато-моногатари ヤマト・モノガタリ』などをロシア語に訳しているので「モノガタリ」という言葉が多少なりともロシア語に浸透しているのではないかと思うからだ。

それはともかく、この『東京物語』は今後、ロシア人を案内する際になくてはならない本になるに違いない。
銀座の老舗、歌舞伎、日本橋、築地、能の魅力、将棋の殿堂、芝泉岳寺と赤穂浪士、両国国技館、相撲、茶道などといった伝統的な「日本らしい」場所や文化の紹介の他、オタク文化とメイドカフェ、漫画・アニメ文化といったサブカルチャーにも目配りがきいている。フーテンの寅さん、阿部定、「男装の麗人」川島芳子、ジャサイア・コンドルといった東京の特定の場所にまつわる「有名人」がピンポイントで紹介されているのも面白い。
グルメ・ガイドも充実していて嬉しい。思わず「морской черт あんこう」と「вьюн どじょう」に目がいった。

ロシア語ガイド通訳の方たちが蓄積してきた知識と経験を凝縮したものなのだろう、表面的な旅行ガイドとは一線を画し、背景にある歴史や文化についてたっぷり薀蓄を傾けたロシア語による見事な日本紹介の書になっている。
日本に住んでいるロシア人の日本理解にも大いに役立つことだろう。

2011年12月25日

市民の心を動かすナヴァーリヌィのブログ

12月4日(日)のロシア下院の選挙結果をめぐり、10日(土)と24日(土)の2度にわたりモスクワを初めとするロシア各地で抗議デモや集会が行われた。主催者側の発表によると、24日のモスクワのデモには12万人が参加したという。

下の写真はモスクワの「サハロフ博士大通り」で開かれた集会の様子。テントの上のほうに「ロシアは自由になる!」、奥には「公正な選挙を」と書かれている。
 
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かつての「反体制科学者」アンドレイ・サハロフ博士の名を冠した通りが集会の場所に選ばれたのは、もちろん偶然ではあるまい。
これほど大規模なデモが実現した理由のひとつにあげられるのがインターネットだ。いまロシア語のネット世界で最も大きな影響力を持っているのが Алексей Навальный アレクセイ・ナヴァーリヌィ(1976年生れ)のブログだと言われている。
 ↓
http://navalny.ru/

ナヴァーリヌィは弁護士で社会活動家。
自らのブログに РосПил(ロスピル)という汚職撲滅サイトを特設し、政府や地方自治体の資金が買収や賄賂に使われていないか監視していたが、今回、下院選挙不正疑惑に抗議する市民デモに参加するよう呼びかけを掲載した。
以下に、訳文を添えて「アレクセイの呼びかけ」の一部を引用しよう。

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Бороться за свои права это легко и приятно. И это совсем нестрашно. Не верьте глупостям о неизбежных беспорядках, драках с милицией и горящих автомобилях.(自分の権利のために闘うのは簡単ですし快いものです。少しも怖くなどありません。無秩序になるのは避けられないとか警察と殴り合いになるとか車が燃やされるといった馬鹿げた噂を信じてはいけません。)

Единственное, но самое мощное оружие, нужное нам есть у каждого -это чувство собственного достоинства.(私たちに必要な唯一の、しかし最も強力な武器を私たちひとりひとりが持っています。それは自尊心という武器です。)

Люди с чувством собственного достоинства есть. Их много. И я знаю, что тысячи их стоят сейчас на Площади Революции и на Болотной. В Москве и в других городах страны.(自尊心を持った人はいるのです。しかもかなり沢山。そういう何千という人たちが革命広場やボロートナヤ広場にいることを私は知っています。モスクワにもその他の都市にも。)

Нет никаких репрессий и дубинок. Нет задержании и арестов на 15 суток. Все это чушь. Нельзя избить и арестовать сотни тысяч и миллионы. Нас даже не запугали, а просто на какое-то время убедили, что жизнь жаб и крыс, жизнь безмолвных скотов, это единственный способ получить в награду стабильность и экономический рост.(弾圧もなければ警棒を振り回されることもありません。この15日間拘留も逮捕もなかったではありませんか。そんなのはすべて戯言なのです。10万人や100万人を殴ったり逮捕したりすることなどできません。脅されることさえありませんでした。ただ、ヒキガエルやネズミ、口を閉ざした家畜のような生活をするのが、ご褒美に安定と経済成長を手に入れる唯一の方法だとしばらくの間思わされていただけなのです。)

Морок развеивается, и мы видим, что скотское безмолвие стало подарком только кучке жуликов и воров, ставших миллиардерами. Настало время сбросить оцепенение.(霧が晴れて目にするのは、家畜のように口を閉ざしていてもそれは億万長者になったコソ泥や盗賊の集団への贈り物になるだけだということです。もう茫然としている場合ではありません。)

Мы не скоты и не рабы. У нас есть голос и у нас есть силы отстаивать его. Все люди с чувством собственного достоинства должны чувствовать свою солидарность друг с другом. Неважно где они сейчас на площадях, на кухнях или в спецприемниках. Мы чувствуем свою солидарность с вами и мы знаем, что мы победим. Иначе быть просто не может. (私たちは家畜でも奴隷でもない。私たちには声があるのだし、声をあげて主張する力もあります。自尊心を持っている人ならだれでも互いに連帯を感じるはず。私たちはあなた方に連帯を感じています。そして私たちが勝つとわかっています。ただただそうでなければならないのです。)


24日の抗議デモの報道写真を見ると、街のあちこちに「コソ泥や盗賊の党はごめんだ」とか「私たちは家畜でも奴隷でもない」と書かれた大きな横断幕が掲げられているのが目につく。ナヴァーリヌィの上の呼びかけに応じたものであることは間違いない。

ちなみに、集会では活動家や音楽家らとともに作家のボリス・アクーニンとドミートリイ・ブィコフもスピーチをした。アクーニンは、市民のこの自発的な運動を「Честная Россия 公正ロシア」と名づけようと提案し、今や「честность(公正、誠実)」という言葉がキーワードなのだと語った。
集会の数日前アクーニンは、最新の歴史探偵小説 『Весь мир театр 世界はすべて劇場』 が「過激主義」でないかどうか警察にチェックされるという明らかな嫌がらせを受けている。彼の身が案じられる。
しかし、少なくとも24日はたいした混乱もなく平穏のうちに抗議のデモンストレーションは終わったようだ。

どうかこうした平和で民主的なデモや集会が今後も力で制圧されたりしませんように!
どうか честность(公正・誠実)と свобода(自由)を求める声がかき消されませんように!
そして、どうかけっして流血の事態になどなりませんように!

2011年12月29日

【お知らせ】 来たれ! ロシア会

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2012年1月21日(土)東京外国語大学ロシア語科卒業生でつくる「ロシア会」は年に一度の総会を行う。

13:00~ 研究講義棟 115教室
講演: 元モスクワ日本センター長 朝妻幸雄氏
    「現地で見るロシア経済と今後の日露ビジネス関係」

15:00~ 大学会館1階食堂
懇親会: ロシア民謡研究会「ルムーク」のミニコンサート、クイズ大会等

「卒業生と在校生をつなごう」をモットーに、懇親会ではミニコンサートやクイズ大会を企画するなど、例年以上に楽しい場を提供する予定だ。

卒業生の皆様――同窓生と旧交を温め、新しい出会いを見つけるため、在校生たちを激励するため、ぜひお誘いあわせの上お出かけください!
在校生の皆様――諸先輩と交流し、お話を伺うため、食事やクイズを楽しむため(景品付きです)ぜひ参加してください!


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