« ギャラリー「ナシチョーキンの家」 | メイン | 【お知らせ】 映画 『ヤクザガール』上映 »

マリアム・ペトロシャン 『ある家の出来事』

モスクワから航空便で送った本が2週間ちょっとで東京の自宅に届いた。
小包を開けると、Мариам Петросян マリアム・ペトロシャンの分厚い小説 『Дом, в котором... ある家の出来事』 (Livebook / Гаятри, 2009) が出てきた。サイン入りである。
作家のサイン本を集める趣味はとくにないのだが、モスクワ滞在中、ネットでペトロシャンのサイン会があることを知って一目本人を見てみたくなり、950 ページもある重い本を持って会場に出かけたのだった。


petrosian.jpg


そこは"Dodo" という趣味のいい小さな本屋さんで、川端康成や安部公房や三島由紀夫のロシア語訳書も棚に並んでいた。
店の奥のウナギの寝床のような狭い一角にはもう人がひしめいており、作家が現れると、びっしり両脇に人がすわるわずかな隙間に行列を作ってサイン会が始まった。

ペトロシャンは、苗字からも明らかなとおりアルメニア系で、1969年アルメニアの首都エレヴァンに生まれた。アルメニアやモスクワの映画スタジオでアニメ―ションの制作をしていたが、1991年このロシア語小説の執筆に取りかかり、10年以上の歳月をかけて完成させたという。2009年に出版されるや注目され、同年「ボリシャヤ・クニーガ(大きな本)」賞の読者特別賞を受賞した。

一種のファンタジー小説といっていいだろう。
あたかも自らの意思を有しているかのような「家」(文中でもつねに Дом と大文字で書かれる)は、障害を持つ子供たちが暮らす養護施設である。この「家」に転入してきた男の子を中心に、ニックネームで呼ばれる住人たちの生態が描かれる。「家」には「家の内側」と呼ばれるパラレルワールドがあり、そこに自由に出入りできる子がいる。子供たちはこの家を出るか留まるか、選択を迫られているのだった……。


M.%20Petrosian.JPG


サイン会の後、ペトロシャンが読者からの質問に答えたが、その中で、この作品はかならずしも子供のために書いたのではないと言っていたのが印象的だった。
作者は飾り気のない小柄な女性だが、著書は分量も中身も賞の名前のとおり「ボリシャヤ・クニーガ(大きな本)」である。

この小説については岩本和久さんが、平成22年版 『文藝年鑑』 (新潮社、2010年、91ページ)でいち早く紹介している。

ついでながら、ペトロシャンは Мартирос Сарьян マルチロス・サリヤン(1880-1972)の曾孫だという! サリヤンは、どこか懐かしいような(ロシア人にとってはたぶんエキゾティックな)南国の風景、豊饒の大地、花々や果物をあふれんばかりの鮮やかな色彩で描いたアルメニアを代表する画家である。

Sariyan220px-By_the_Well__Hot_Day%2C_1908.jpg

(サリヤン 『壁の前、暑い日』1908)


Sariyan%20Osennii%20natiurmort.%20Zrelyi%20frukt%201961.jpg

(サリヤン 『秋の静物、熟した果物』1961)


About

2011年10月 1日 12:49に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「ギャラリー「ナシチョーキンの家」」です。

次の投稿は「【お知らせ】 映画 『ヤクザガール』上映 」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。