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ギャラリー「ナシチョーキンの家」

モスクワで訪ねたギャラリーのひとつ「ナシチョーキンの家」で面白い展示を見た。
ギャラリーの名の由来は、建物が、プーシキンの友人で芸術のパトロンだったパーヴェル・ナシチョーキンの屋敷だったこと。プーシキンは最後のモスクワ訪問の際、この家に滞在したという。
1994年に美術館としてオープンして以来、Михаил Шемякин ミハイル・シェミャーキン、Олег Целков オレーグ・ツェルコフ、Эрнст Неизвестный エルンスト・ネイズヴェスヌィら亡命して国際的に認められたロシア出身の現代アーティストたちの作品をいち早く精力的に紹介し「ロシアに取り戻し」てきた。

私が行ったときは、ギャラリーの創設者 Наталья Рюрикова ナターリヤ・リュリコワの「一族」の作品を集めた「Семейные Ценности 家族の価値」展が開かれていた。


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映画『罪と罰』(1969)や『赤と黒』(1976)などで美術を担当した映画美術デザイナー Петр Пашкевич ピョートル・パシケーヴィチ(1918-1996)を初めとする7人のアーティストは、ひとつの家族・親戚を成しているのに世代も作風も違い、それぞれとても個性的だった。

ピョートルの息子で画家の Андрей Пашкевич アンドレイ・パシケーヴィチ(1945-2011)は、1980年代後半のペレストロイカ期に 「Политэкология 政治エコロジー」というシリーズで一連の作品を描き、当時の社会の混乱を独自の視点から写しとった。そのうちの1枚が下。
イコンを運び去るワシが、眼下に急流を見下ろす位置で描かれている。双頭のワシが帝政ロシアの国章だったことや、槍で竜を退治する聖ゲオルギーが古来モスクワの庇護者とされてきたことを思い出せば、ワシが、どこに流れ着くかわからない川=ロシアから、聖ゲオルギーのイコンを救い出す図は、あまりにわかりやすすぎるような気もするが、象徴性、寓意性、ダイナミックな構図は興味深いと思った。他にゴルバチョフやプーチンを「人間的」に描いた作品もあるこのシリーズには、改革への期待も希求も失望も込められているという。


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ピョートルの孫にあたる画家の Анастасия Рюрикова-Саймс アナスタシヤ・リュリコワ=サイムスは1969年モスクワ生まれ。1993年から舞台美術デザイナーとしてアメリカで活躍しており、これまでに 『巨匠とマルガリータ』や『父と子』などの舞台を手がけたという。
画家としての才能もなかなかのものだ。下は『神の夢』と題する彼女の作品で、私はいたく気に入った。


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2011年9月29日 14:48に投稿されたエントリーのページです。

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