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セルゲイ・シャルグノフ 『写真のない本』

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モスクワの「ビブリオ・グロブス」という書店に行ったら、店を挙げての「イチオシ図書」だったのがこの本。
Сергей Шаргунов セルゲイ・シャルグノフ 『Книга без фотографий 写真のない本』(アリピナ・ノンフィクション社、2011)である。

シャルグノフは1980年生れ。モスクワ大学ジャーナリスト学部の学生だった2001年 『Малыш наказан 子供は罰せられる』 という中編で、新人のための文学賞である「デビュー賞」を受賞した後、作家、評論家として活躍している。政治活動にも携わっており、2007年より野党「Справедливая Россия 公正ロシア」の幹部を務める。『Птичий грипп 鳥インフルエンザ』はロシアの若者の政治活動を描いた本だという。


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端整な顔立ち、華麗な経歴、さらに新刊が自伝的な内容とくれば話題にならないはずはない。しかし、この『写真のない本』はまったく浮ついたものではなさそうだ。日本に戻ってくる飛行機の中で拾い読みしただけだが、抑制のきいた語り口で過去のエピソードを鎖のように連ねたシャルグノフの方法には、何よりも「誠実」という言葉が似合うような気がする。係争地へ出向いた経験にもとづく「チェチェンへ、チェチェンへ!」という短編がよかった。

2001年に『新世界』誌に寄せた評論でシャルグノフは、ペレーヴィンやソローキンらの「ポストモダニズム」も大衆文学もほとんど評価せず、すでにはっきりとオーソドックスな純文学的「リアリズム」の復活を明言していた。こんなふうに。

「結局のところ、根も土壌も昔のままなのだ。土壌はリアリズム、根は人々である。
目を凝らしてみよう。華やかな色とりどりの中にリアリズムの蕾がある。リアリズムは芸術の庭におけるバラである。
私は呪文のように繰り返そう。新たなリアリズムと!」

いい意味でロシア文学の伝統を受け継ぐ「大物」作家に成長するのではないか。そんな予感がする。
今回のモスクワ出張の最大の収穫であった。

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2011年9月19日 12:18に投稿されたエントリーのページです。

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