Арсений Тарковский アルセーニイ・タルコフスキー (1907-1989)の素敵な訳詩集が刊行される。前田和泉訳、鈴木理策写真 『白い、白い日』(Ecrit、2011)。
詩人アルセーニイ・タルコフスキーは、現代ロシアの生んだ最も優れた映画監督アンドレイ・タルコフスキー(1932-1986)の父。アンドレイの映画 『鏡』や『ストーカー』や『ノスタルジア』の中では、父アルセーニイの詩がいくつか朗読されている。
本書は、じつにセンスのいい、しかも贅沢な詩集である。厳選されたロシア語作品が前田和泉さんの美しい日本語の「詩的言語」に変身し、そこに鈴木理策さんの素晴らしい写真が添えられているからだ。詩と写真の絶妙なコラボレーションによって、アルセーニイ・タルコフスキーの哀しみに満ちた抒情の本質がよく伝えられている。雨に濡れたライラックのようにしっとりとした感情に浸ることができる。
集中私がいちばん好きな「初めの頃の逢瀬」の冒頭部分を原詩とともにあげておこう。『鏡』で朗読されている作品である。
Свиданий наших каждое мгновенье
Мы праздновали, как богоявленье,
Одни на целом свете. Ты была
Смелей и легче птичьего крыла,
По лестнице, как головокруженье,
Через ступень сбегала и вела
Сквозь влажную сирень в свои владенья
С той стороны зеркального стекла.
逢瀬の一瞬一瞬を
僕らは祝福した、まるで神の顕現のように、
世界にただ二人きりで。君は
鳥の羽よりも大胆で軽やかだった、
階段を、まるでめまいのように、
一段飛ばしで駆けおり、そして導いてくれたのだ、
濡れたライラックの茂みを抜け、自らの領地へと、
鏡のガラスの向こう側の。 (前田和泉訳)
なお、来る10月8日(土)15:00より 馬喰町ART+EAT で、刊行記念イベントとして、訳者と滝本誠さんのトークショーが予定されている。詳しくはこちら。
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http://www.art-eat.com/event/?p=1591