これは、モスクワ・コンセプチュアリズムの非公認芸術家だった Эрик Булатов エリク・ブラートフ (1933年生れ)が1973年に制作した『 Опасно 危険 』というタイトルの作品だ。一見どこか郊外ののどかな風景のように思えるが、遠近法にのっとって四方に赤字で書かれているのは、ロシア語で「危険」を意味する言葉。人々が楽しげに語らいのんびり散歩する牧歌的な情景が、この赤い文字によって「異化」され、何やらきな臭くただならぬ気配に包まれている。
福島第一原子力発電所の事故を経験しているさなかの私たちにとって、この作品は、ソ連という全体主義国家の特殊な事情を揶揄しただけのものとはどうしても思えない。これは、目に見えない放射性物質が周囲に蔓延して「危険」なのにのほほんと暮らしている私たち自身の姿ではないだろうか。
原発の危険性、高コスト、放射性廃棄物処理の絶望的な困難さがだれの目にも明らかになったという今の今、それでもまだ原発を再稼働させようというのか。