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2011年6月 アーカイブ

2011年6月 2日

「ミンスクの台所」で課外ゼミ

六本木にあるベラルーシ料理の店「ミンスクの台所」で課外ゼミをおこなった。
ベラルーシの食文化の特徴は何といってもジャガイモ料理の豊富なこと。レストランのオーナーであるヴィクトリアさんの話では、ジャガイモの消費量は、日本が年間24キロなのに対して、ベラルーシは300キロ以上だという。

ポルチーニ茸やトマトのピクルス、「毛皮をまとったニシン」のジャガイモサラダ、パプリカの肉詰め、ジャガイモのドラニキ、サーモンマリネのクレープ巻き、ソバの実のシチューの壺焼き、コッテージチーズ入りブリンチキ、揚げ菓子、白樺の樹液ジュース……どれも美味しかった!
ゼミを終えて、満腹の1枚がこれ。
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2011年6月 4日

ユーリイ・ロトマン 『ロシア文化講話』

沼野ゼミ(3年生)の授業で読んでいるのは、Юрий Лотман ユーリイ・ロトマン 『Беседы о русской культуре: Быт и традиции русского дворянства (XVlll - начало XlX века) (ロシア文化講話:18世紀から19世紀初頭ロシア貴族の日常と伝統)』(Санкт-Петербург: Искусство-СПБ, 1994) の中の「舞踏会」の章。


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学生は担当した箇所を翻訳し、「ロシア貴族社会の演劇性」についてプレゼンテーションをおこない、論点を提出(ここまで要レジュメ)、最後に全員でその論点について議論する。
先週の授業で出された論点は、「ロシアにはなぜ女帝が多いのか?」

2011年6月 5日

「ポスト t.A.T.u. のロシアン・ポップス」

『群像』 7月号の「私のベスト3」というコラムでロシアのポップスを3つ紹介した。題して「ポスト t.A.T.u. のロシアン・ポップス」。駄文は『群像』で読んでいただくとして、独断と偏見で選んだその3曲を、歌詞の一部とともにご紹介しよう。

① Юлия Савичева ユリヤ・サヴィチェワ "Если в сердце живет любовь (もし心に愛が生きているなら)"

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連続テレビドラマ "Не родись красивой (可愛く生まれなかったら)" の主題歌となった曲。ヒロインのカーチャはメガネをかけ歯列矯正をしているダサい女の子だが、最後には綺麗で素敵な人だと判明するという「醜いアヒルの子」みたいなドラマだ。この曲はカーチャへの応援歌になっている。

http://www.youtube.com/watch?v=jU-f4rvak1c

♪ Не смотри, не смотри ты по сторонам,
Оставайся такой как есть, оставайся сама собой.
Целый мир освещают твои глаза, если в сердце живет любовь.

♪ まわりを見ないで、見ないで、
あるがままでいいの、あなたらしくしていればいいんだから
あなたの瞳が世界中を輝かせる、もし心に愛が生きているなら


② Дима Билан ジーマ・ビラン "Все в твоих руках (すべてはきみの手に)"

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1994年よりロシアは「ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト」に参加している。ジーマ・ビランは2008年この曲の英語ヴァージョン(タイトルは "Believe")で優勝した。ビデオクリップに登場しているのは、フィギュアスケートのエヴゲーニイ・プルシェンコとバイオリニストのエドヴィン・マルトン。

http://www.youtube.com/watch?v=ipNt0KTdoVo

♪ И сбудется однажды твоя мечта
Как бы далека не казалась она
Надо только сделать к ней первый шаг
Доказать себе, что нет
В этом мире невозможного для тебя.

♪ いつかきみの夢はきっと叶う
どれほど遠くにあるように見えても。
夢に向かって最初の1歩を踏み出し
自分自身に証明するんだ
この世に不可能なことはないって


③ Серебро セレブロー "Дыши (息をして)"

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ビデオクリップが芸術的、シュール、幻想的で何しろ素晴らしい! ロシアのフォークロアには、男たちを水の中に引き入れて溺れさせるルサールカという水の精がいるが、このクリップでは「セレブロー」の美女3人を「現代のルサールカ」に見立てているのではないかと思う。

http://www.youtube.com/watch?v=kGSjofooXnQ&playnext=1&list=PL8E43BA98B3368824

♪ Дыши со мной
Отражая тени - мы танцуем под водой
Дыши со мной
Может быть, когда-то мы увидимся с тобой.

♪ 私と一緒に息をして
影を映して、水面の下で踊りましょう
私と一緒に息をして
いつか私たち会えるかもしれない

2011年6月 7日

アレクサンドル・ゲニス 『研究 2!』

大学院の授業で読んでいるのは Александр Генис アレクサンドル・ゲニス  『Расследования: Два! (研究 2!)』 (М.:Подкова, Эксмо, 2002)。今年はヴィクトル・ペレーヴィンで修論を書く院生がいるので、この中のペレーヴィン論を選んだ。章のタイトルは "Поле чудес"。これをどう訳すか、授業でああでもない、こうでもないと議論したあげく、「奇跡が原」とすることにした(妙案!)。
ちなみに、これがゲニスの本の表紙だが、6人の顔写真のうちペレーヴィンは左下。彼はたいていサングラスをして顔を半ば隠している。
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ゲニスが、ペレーヴィンの手法を「境界の詩学」と呼び、シュールレアリスムの画家ルネ・マグリットの方法と同じだと指摘しているのは興味深い。たしかにペレーヴィンは、夢と現実、芸術と自然、人間と虫、生きているものと死んでいるものの境界線上で戯れているし、たとえば裸婦と木目のハイブリッドを描いた『発見』(1927)では、マグリットも人間と植物の境界を探っているように思える。


magritte.jpg マグリット『発見』

2011年6月11日

【お知らせ】 オタール・イオセリアーニ 『Chantrapas』

来る6月25日(土)14:30より有楽町朝日ホールでオタール・イオセリアーニ監督の 『Chantrapas』が上映される。来年春には岩波ホールなどでも上映予定。半ば自伝的な作品だという。

http://www.unifrance.jp/festival/2011/films/2011/05/chantrapas.html


イオセリアーニ監督(1934年生れ)はグルジア出身。トビリシ音楽院、モスクワ大学、モスクワの国立映画大学で学び、1979年フランスに移住。『落葉』(1966)、『田園詩』(1976)、『素敵な歌と舟はゆく』(1999)、『月曜日に乾杯』(2002)などの作品があり、数々の国際的な映画賞を受賞している。


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私は『素敵な歌と舟はゆく』が好きだが、思わせぶりなコウノトリ、ヘリコプターで仕事に行くビジネス・ウーマンの母、自分に乱暴をはたらいた男と結婚してしまう娘、大金持ちの息子でありながらアルバイトに精を出すニコラ、刑務所から出てきて友達をあっさり見捨てるニコラ、浮浪者と意気投合して家出する父(イオセリアーニ監督自身が父を演じている)……といった具合に、ひたすら観客の意表を突くストーリーの展開が興味深い。蓮見重彦氏によれば、「何かが均衡を欠き、ひたすら誇張へと向かいながら、それでいて見慣れた光景があらゆる人物を矛盾なく受け入れてしまう」のがイオセリアーニ的な構図だという。
はたして新作はどうだろうか。楽しみだ。


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2011年6月12日

ユーリイ・ガガーリン 『宇宙への道』

古川聡さんが、Союз ソユーズ(「結束、結合」を意味する)宇宙船で国際宇宙ステーションに旅立った。
今年は、1961年にソ連のユーリイ・ガガーリンがВосток ヴォストーク(「東方」を意味する)宇宙船で人類史上初めて宇宙飛行に成功してからちょうど50年目という記念すべき年にあたる。

Юрий Гагарин ユーリイ・ガガーリン (1934-1968)は、『 Дорога в космос 宇宙への道 』という著書の中で、宇宙から見た地球の姿をこう描写している。

Лучи его (Солнца) просвечивали через земную атмосферу, горизонт стал ярко-оранжевым, постепенно переходящим во все цвета радуги: к голубому, синему, фиолетовому, чёрному. Неописуемая цветовая гамма! Как на полотнах художника Николая Рериха!

「やがて地球の大気をとおして太陽の光線がもれてきた。地平線上が明るいオレンジ色に輝きはじめた。空色、青色、すみれ色、黒と移りかわる七色の虹のかぎろい。とても言葉にはつくせない色の諧調! まるでニコライ・レーリヒの絵を見るようだ!」 『宇宙への道』江川卓訳(新潮社、1961)

ここに出てくる Николай Рерих ニコライ・レーリヒ (1874-1947) とは、サンクト・ペテルブルグ出身の画家で神秘思想家、探検家。1913年に初演されたバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の『春の祭典』(作曲ストラヴィンスキー)で台本や美術を担当したアーティストでもある。チベット、ヒマラヤを訪れて描いた作品が素晴らしい。
いったいガガーリンが念頭に置いていたのは、レーリヒのどの作品だったのだろう。


Rerich%20Prevyshe%20gor.jpg 『Превыше гор (山々よりはるかに高く)』


rerih%20Gimalai%2C%201941%20iz%20serri%20Gomalai.jpg 『Гималаи (ヒマラヤ)』


Rerih%20Gimalai.%20Everest.jpg 『Еверест (エヴェレスト)』


reriha%20Gimalai.%20Golubye%20gory.jpg 『Гималаи. Голубые горы (ヒマラヤ、青い山々)』


reriha%20Kniga%20zhizni.jpg 『Книга жизни (人生の書)』


Rerich%20Gimalai.%20rozovye%20gory%201933.jpg 『Розовые горы (バラ色の山々)』


Rerih%20Jemchug%20iskanii%201924.jpg 『Жемчуг исканий (探求の真珠)』


Rerih%20Sokrovishcha%20snegov.jpg 『Сокровища снегов(雪の宝物)』


ちなみに、自分のことをユーリイ・ガガーリンの実の母だと思いこんでいる(らしい)女性を主人公にしたニーナ・サドゥールの奇想天外な短編「空のかなたの坊や」を、『新潮』 2009年6月号で翻訳・紹介した。サドゥールの天を突き地を裂く想像力がフル回転しているような作品だ。

2011年6月16日

【お知らせ】 姜信子さん講演会

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2011年7月7日(木)16:00~17:30 「表象文化とグローバリゼーション」という授業に作家の姜信子さんをお招きし、記憶とコトバをめぐる旅について講演をしていただく。 題して 「『空白』をつなぐ旅~記憶の彼方、コトバの行方~」。場所は東京外国語大学キャンパス101教室。
ウズベキスタン生れのコリョサラム(高麗人)で写真家のヴィクトル・アン、カザフスタン生れのコリョサラムでロシア語作家のアナトーリイ・キム……。私は 『ノレ・ノスタルギーヤ』 を読んで以来の姜信子ファンなので、どんな話がお聞きできるか今からとても楽しみ!

2011年6月18日

【お知らせ】 日本スラヴ人文学会 「大学と社会の狭間でロシアを見つめる」

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2011年7月2日(土)東京外国語大学 115 教室において日本スラヴ人文学会の大会が開かれる。 「大学と社会の狭間でロシアを見つめる」と題するパネル企画は、ロシア語を媒介に大学と社会をつなげようという画期的な試みだ! ロシア語を生かした職業に就きたいと思っている人、就職しようか大学院に進学しようか迷っている人、ロシア関連の情報をどこかで共有できないかと考えている人、一緒に考えてみませんか? 

10:00~ 個人発表1
松下聖(筑波大学大学院博士前期課程)「『バイリンガル作家』としてのチンギス・アイトマートフ」

11:00~ 個人発表2
佐藤貴之(東京外国語大学大学院博士後期課程)「安部公房を通したゴーゴリの再解釈―記号の解体から存在の不安へ―」

13:00~ 国際学会参加報告
堤正典(神奈川大学)「2011年度МАПРЯЛ (国際ロシア語・ロシア文学教師協会)上海大会について」

14:00~17:00 パネル企画 「大学と社会の狭間でロシアを見つめる」
【報告】
佐山豪太(元自動車メーカー勤務)「仕事でロシア語をつかう」
杉浦正樹(医療機器メーカー社員)「インターネットを使用したロシア関係の人脈作りと仕事」
江端沙織(早稲田大学博士前期過程)「ロシア関連企業に就活してみて」
【討論】
土岐康子(法政大学講師)
大須賀史和(横浜国立大学准教授)
司会:沼野恭子(東京外国語大学)


2011年6月25日

課外授業「ボリショイ・サーカスに行こう!」

沼野ゼミ(3年生)7月の課外授業は「ボリショイ・サーカスに行こう!」。
ロシアのサーカスの歴史や特徴を勉強してから、7月に来日が予定されているボリショイ・サーカスの公演に行く。今回サーカス団は、東日本大震災の被災者の方々を招き、収益金の一部を義援金として送ることを予定しているという。

じつは2006年秋に私は、NHKテレビ「ロシア語会話」のロケで「モスクワ国立大サーカス」をスタッフと取材した。巨大な常設サーカス場はじつに華やかで、驚きと笑いに満ちた祝祭空間だった!
写真は、リポーター役のナターシャが空中ブランコの芸人たちやピエロにインタビューしたときの収録風景。


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2011年6月27日

ズヴャギンツェフ監督 『エレーナ』 でカンヌ映画祭審査員特別賞受賞!

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2011年5月カンヌ国際映画祭で、Андрей Звягинцев アンドレイ・ズヴャギンツェフ監督の新作 『 Елена エレーナ 』が審査員特別賞を受賞した! 続いて6月23日より現在、第33回モスクワ国際映画祭がおこなわれているが、ロシア・プログラムの冒頭で『エレーナ』が上映され、たいへんな評判だという。日本でも封切らないものか。

ズヴャギンツェフ監督は1964年ノヴォシビルスク生れ。2003年のヴェネチア国際映画祭で、デビュー長編 『 Возвращение 帰還 (邦題は「父、帰る」)』が金獅子賞(グランプリ)に輝いている。

『父、帰る』のテーマは「父と子」だ。
ある日突然帰ってきた父が、息子ふたりを連れて湖に浮かぶ無人島に行く。父は「神」のイメージに重ねられており、「父」に対する息子たち(兄アンドレイと弟イワン)の態度が、「神」に対する人間の二様の姿勢をあらわしている。つまり、強い父に素直に憧れる兄は信心深い純朴な人間、父を胡散臭い思いで見る弟は誇り高く懐疑的な人間をそれぞれ象徴しているのだ。

この作品には、最後まで明かされない謎がいろいろある。父が帰ってきたのは何故なのか? 無人島で意味ありげに父が掘り出したカバンの中身は何だったのか? 父が話していた電話の相手はだれなのか? 
2004年にズヴャギンツエェフ監督が来日した折、記者会見で、自作の「謎」について聞かれ、次のように答えていたのが印象に残っている。「芭蕉は弟子の曾良に、全部を言い尽くしてはいけない、想像のための空間を残しておくべきだと語ったそうではありませんか」。
見事な受け答えだった。

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