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アレクサンドル・ペトロフ『春のめざめ』

Александр Петров アレクサンドル・ペトロフ(1957年生れ)は、ガラス・ペインティングによるアニメーションの巨匠である。
ペトロフ監督の作品は、うっとりするほど美しい場面とときに激しい幻想的な場面の交替が印象的で、ほとんどが文学作品にもとづいている。『雌牛』はアンドレイ・プラトーノフの同名の短編、『おかしな男の夢』はフョードル・ドストエフスキーの小説、『老人と海』はご存知アーネスト・ヘミングウェイの小説といった具合だ(2000年に『老人と海』でオスカー賞受賞)。
『ルサールカ(邦題は「水の精――マーメイド」)は、ロシアの現役作家マリーナ・ヴィシネヴェツカヤがシナリオを手がけている。


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2007 年に日本で公開された『Моя любовь(邦題は「春のめざめ」)』は、Иван Шмелев イワン・シメリョフの『История любовная(愛の物語)』を原作にして作られたアニメーションだが、シメリョフの小説では Иван Тургенев イワン・トゥルゲーネフの『Первая любовь(初恋)』に言及されているので、ペトロフ監督は両方の小説に依拠しているといえる。つまり、トゥルゲーネフ→シメリョフ→ペトロフという入れ子のような仕組みになっているのだ。


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19世紀末のロシアを舞台とし、レヴィタンやクストージエフといったロシアの画家たちの作品を想起させる場面も多いが、思春期の少年が「愛」に憧れと畏れを抱き、聖と穢れのはざまで揺れる姿は、時と場所にかかわりのない永遠のテーマであろう。一度見たら忘れられない名作である。


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2011年5月 9日 14:04に投稿されたエントリーのページです。

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