Людмила Улицкая リュドミラ・ウリツカヤ(1943年生れ)の『Сквозная линия』 ただいま翻訳中。原題は「貫く線」というくらいの意味だが、たぶん日本語のタイトルは「嘘をつく女たち」になると思う。
6つの短編からなっているが、いずれもジェーニャというひとりの主人公を中心に話が進んでいくので、1本の線(ジェーニャ)に貫かれた「連作アンソロジー」と考えていいだろう。彼女は、お人好しで思いやりがあり、ロシア20世紀初頭「銀の時代」の詩人を博士論文のテーマにした知的な女性だ。
ところが、まわりに現われる女たちがじつに巧みに嘘をつくので、ジェーニャはいつも騙されてしまう。読んでいると「いるいる。こういう人!」と納得させられてしまい、なぜか嘘をつく人に対してあまり嫌な感じを抱かない。
嘘をつくというのは虚構の世界を作りあげるということである。これはまさに小説を書くことにもつながる。女たちが自分自身の人生を題材にして織りあげる虚構の世界、それは、あり得たかもしれないもうひとりの自分(悲劇の主人公、素敵な恋物語のヒロイン、才能ある詩人など)についての物語なのだろう。