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イリヤ/エミリア・カバコフ 『プロジェクト宮殿』

現実から逃避したくなるときがある。何か突拍子もないことを考えたくなることがある。
そんなときにうってつけの本がこれ。

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イリヤ/エミリア・カバコフ 『プロジェクト宮殿』 鴻野わか菜・古賀義顕訳(国書刊行会、2009)。
Илья Кабаков イリヤ・カバコフ (1933年生れ)は国際的に名の知られたコンセプチュアル・アーティストだ。ウクライナ出身で、ソ連時代は非公式芸術家として活動した。
『プロジェクト宮殿』は、「世界を変革するというアイディアを持つプロジェクトを集めた宮殿をつくる」というプロジェクトが記されている奇想天外なアーティストブック。しかも、それらのプロジェクトは旧ソ連の市井の人たちが考えついたものという「体裁」をとっている。いってみれば、メタ・プロジェクトである。

ここには、「自分を変える方法」プロジェクト(天使の翼を作って装着する)、「他人を信じてみる」プロジェクト(アパートの窓から、買い物を頼むメモとお金を入れたバスケットを垂らす)、「木々や石や動物たちとの共通言語」プロジェクト(レインコート型アンテナを着て自然が発するシグナルを認識する)、「どこでもマシン」プロジェクト(天井も壁もどこでも走れる乗り物)、「前向きや姿勢と楽天主義を照らす」プロジェクト(生命力あふれる絵を貼り付けたブースを公共の場に置く)、「プロジェクト育成箱」プロジェクト(アイディアが閃いたら、それを書き留めその紙片を土に埋めておく)等々といった破天荒な思いつきが詰まっていて、何しろ面白い! カバコフ夫妻は人間の想像力の限界に挑戦したかったのだろう。驚異のアイディア・ブックなのである。
これらのプロジェクトを模型にして、カタツムリのような形の「宮殿」に並べたインスタレーションが、ドイツのエッセンに常設されているという。一度訪れてみたいものだ。
鴻野・古賀夫妻が、カバコフ夫妻のこのユニークな作品をセンスのよいこなれた日本語に訳し、素晴らしい解題を付している。

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2011年5月15日 16:14に投稿されたエントリーのページです。

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