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グーバレフ 『石棺――チェルノブイリの黙示録』

将軍: あんたがた、学者先生たちの予測は、まったく当てにならん。
物理学者: 失礼ですが、あなたの結論には私は承服しかねます。
原発所長: (茫然自失の状態から脱する)あの人の言うとおりだ(将軍のほうをさす)。何回繰り返し言ったんだ、「原発はいちばん安全だ」「原発は信頼性が高い」とな! まったく、あんたがた物理学者は言いたい放題のことを言ったもんだ。
物理学者: お言葉ですが、あなたの口からそんなことを聞くなんて……
原発所長: 私が言うのと、誰かほかの人、たとえばあの人(将軍をさす)が言うのとどこが違う。
将軍: ちょっと待った。他人のせいにするな、あんたは原発所長だぞ。あんただって責任をとるべきだ!
原発所長: あんたに責任がないというのか?
将軍: わしか? わしは自分の責任をわきまえておる……

 ウラジーミル・グーバレフ 『石棺――チェルノブイリの黙示録』
 金光不二夫訳(リベルタ出版、1987)


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25年前、1986年の今日、4月26日、旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所で、4号炉が炉心溶融して大爆発を起こした。火災が発生し、大量の放射性物質(「死の灰」と呼ばれる)が放出された。廃炉とするべく4号炉を巨大なコンクリート建造物でおおった人々は、これを「古代の墓石」になぞらえて саркофаг(石棺)と呼んだのだった。
ウラジーミル・グーバレフ(1938年生れ)はジャーナリストだが、『石棺』というタイトルの戯曲を書いて文芸誌『ズナーミャ』1986年9月号に発表した。この中では、「放射能安全対策研究所」内の病室で、被爆患者たちが次々に命を落としていく……。
原発事故を扱った作品が異例のスピードで読者に届けられたのは、当時ゴルバチョフ共産党書記長がペレストロイカとともに、グラースノスチ(情報公開)を押し進めていたからだろう。
それにしても、上に引いた箇所はなんとよく現在の日本にあてはまることか。「安全神話」を撒き散らしてきた者たちの責任はきわめて重いと言わざるを得ない。それを鵜呑みにしてきた私たちにも責任はあるけれど。
たとえ日本国中に醜い石棺を50以上作らなければならないとしても、そのために莫大な費用がかかるとしても、そして効率の悪い不便な代替エネルギーで我慢しなければならないとしても、そのほうがいいのではなかろうか。放射能にただれた大地や海を子孫に残すことに比べれば。


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2011年4月26日 15:18に投稿されたエントリーのページです。

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