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乱視の「戦後レジーム」、宮武外骨の名著復刊に寄せて

 乱視の「戦後レジーム」

 安部首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げる。だが、この「戦後レジーム」とは実はねじれている。それは日本の「敗戦」と米軍による占領統治から始まるが、戦後憲法の平和主義と基本的人権を軸に作られたはずのこの体制に、途中から――冷戦の都合で――「日米安保条約と米軍駐留」という要件が持ち込まれ、これが覆いかぶさる。

 だから「戦後レジームの脱却」を言うなら、まずはこの「日米安保体制」つまり彼らの言う「日米同盟」を解消しなければならないはずだ。ところが安部らの乱視の目で見るとそうならない(この点では田母神が演説でよく言うように、安部はマスゾエなどより田母神や石原に近い)。

 彼らの目には「日米同盟」は不動の前提で、ただ戦後憲法だけが邪魔な標的に見える。そして最近の「NHK事件」に露呈したように、安部とそのお友達の考えでは、日本が戦争をしたのは悪くない、悪いこともしていない、悪いんなら他の国も同じだ、ただアメリカには確かにすごかった、核兵器も作って落としたし、だからアメリカとは仲良くしてもらう、だが中国なんかには負けてない、アジアは下等な敵だ、それに対して日本は現人神を祀る神国で、国民はみな神のために命を投げ出す、そのために靖国がある、そうでない奴らは国賊だ、叩き出せ、日本はそういう「美しい国」なんだ、ということだ。それを本気で言う。まさかそこまで、と思っていた人たちも、一連のNHK経営幹部発言で、それが本当だと分かっただろう。

 まるで戦前の体制のゾンビ――つまりお化け――である。だがアメリカはそういう日本を気持ち悪がって、原爆まで落として潰した。それがまたぞろ復活してきたのだから穏やかではないだろう。戦後の「日米安保」や米軍駐留は、アメリカにしてみればそんなゾンビの復活を抑え込むためのものでもあったのだ。

 そのことを安部は分かっていないようだ、というより分かりたくない。早く言えば、「敗戦」を否認するというか、少なくとも「日本の戦争は悪くない」と思っているのだ。だってお祖父ちゃんやその同類たちがやったんだから。

 彼らは日本の「統治」あるいは「支配」を自分たちの役目、というより特権とみなしている。ずぶずぶと拡大する戦争をやって失敗した。国民を巻き込んだというが、国民が自分たち言うことを聞くのはあたりまえだ。「天皇の赤子」じゃないか。「天皇陛下万歳!」と言って喜んで死ね。そうしたら「英霊」にして十束ひとからげで祀ってやる、くそゴミ!と言って嫌がる天皇を祭りあげる。そして失敗すると、今度は勝者に取り入って、「お役にたちますぜ!」と貢物を差し出して、日本を統治し続ける地位だけは確保する。アメリカの「代官」としてだ。この姿勢を「自発的隷従」と言う。

 ところが国民は、敗戦でこりごりし、ことの実相を知り、もう戦争は嫌だと心底思うようになった。そこにアメリカが「平和憲法」を与えてしまった。これがまずい。実際、アメリカだって後になって、日本を軍事力として使えなくて困ったじゃないか。国民が憲法を盾に「平和」や「人権」を求める、そして政府に盾突くこともできる、そんな体制のためにお祖父ちゃんも苦労した。こんな憲法は「押しつけだ」、そんな「戦後レジーム」は一掃しなければいけない、それが彼らの論理である。

 だが、後で後悔したとしても「押しつけた」のはアメリカだ。それに冷戦が終わってからは、日本に軍備を売ってもうけようとする連中以外、アメリカは日本に「戦後レジーム」を「押しつけた」ことを後悔していない。日本も西洋と「価値観を共有する」国になったということだからだ。それなのに、安部政権はゾンビの復活を目指してひた走る。

 安部たちはその地位を確保するために「日米同盟」を頼みにしながら、「親米」の保証である「戦後レジーム」を否定しようとしているのだが、それは無理な話だ。「敗戦」を否認するなら、「西洋的価値」で作り上げたグローバル秩序の異物となることを覚悟しなければならない。そうなると、「アメリカ様」のご機嫌を損ねますよ、ということだ。

 宮武外骨『アメリカ様』を読もう

 この「戦後レジーム脱却」の倒錯は、やがて70年になろうとする「敗戦」が国民一般にとって何だったのか、それをあらためて想起することではっきりする。言いかえれば、「乱視」がなおる。

アメリカ様.JPG ちょうどそれが核心的課題になってきたときに、報道と批判の自由を求めて独特の闘いを続けた異貌反骨のジャーナリスト宮武外骨が、敗戦の翌年、東京裁判開廷の日に出版した『アメリカ様』が復活する(ちくま学芸文庫)。

 秘密保護法が強行採決で通された直後に、「入獄4回、罰金・発禁29回という輝かしい記録をもつ外骨」(裏表紙から)のこの本が、みずからの「筆禍」を羅列した『筆禍史』を付して再刊されるのは、何というタイミングか。この本は、外骨一流の諧謔とともに、簡明直裁な記述で、明治以来の日本の戦争が何であり、一般の国民にとって「敗戦」とは何であったかが、あざやかに浮かび上がらせている。ぜひ、いま読んで考えたい本だ。 この本に、「『アメリカ様』と『強い日本』」という解説を書く機会を得た。その一部をここに紹介・掲載させてもらう。この本、ぜひ読んでみてほしい。

[以下、解説の抜粋]-----------------------------------

 どういう巡り合わせか、戦前の満州国の設計者を自認しながらアメリカ(CIA)と取引して戦犯の科をまぬがれ、やがて首相になって日米安保の体制固めをした岸信介の孫が、再登板でまた首相になり、今度こそ「強い日本を取り戻す」と称して、交戦権回復(集団的自衛権)の画策、治安維持法まがいの特定秘密保護法強行採決、相変わらずの札束と闇の恫喝で沖縄再処分と次々に手を打ち、年の終わりに意気揚々と靖国参拝までやったところ、TPPの国売り出血大サービスですり寄っているにもかかわらず、そのアメリカからとうとうダメ出しが出たという、このあんまりなタイミングで宮武外骨の『アメリカ様』が再刊される。

 そう「アメリカ様」なのだ。その「アメリカ様」がご機嫌ななめだ。靖国参拝だけではない。特定秘密保護法にもイエローカードが出た。情報共有のために秘密管理をしっかりやれという要求を出したアメリカが、この法律には警戒色をあらわにしている(ニューヨークタイムズ論評、国連からの批判、そこにEUの批判も加わった)。それは安倍政権の進む路線が、戦前の日本の「復興」と重なって見えるからだ。

 現在の安倍政権は経済・財政面で、グローバル統治の主流の金融政策に歩調を合わせて「成長路線」を演出し、「景気回復」ムードを作り出して支持を得ているが、その一般的支持のもとで、目指しているのは憲法改定である。集団自衛権も秘密保護法も靖国参拝も(じつは辺野古新基地建設も)、そのための実質的な基礎固めだと言ってよい。

 集団的自衛権は、アメリカ軍の行う作戦に協力できる(実質的にはその指揮下で戦闘行為を行う)権限のことを言う。これは今は憲法第九条によって禁止されている。秘密保護法は、政府のとる行動や決定を一般市民(国民)に知らせることを禁じる法律だ。国の安全に関わる事柄に関して、ということだが、広くとればあらゆる情報が「国の安全」に関わることになる。そして首相の靖国参拝は、戦前の軍国主義体制の支柱だった国家祭祀の場にお墨付きを与えることだ。だがここは、戦争による死者を「英霊」と祀り上げて、「お国のために死ぬ」ことを国民に強要する霊場だった。そんな超国家主義の装置はほかの国にはない。

(中略)

 要するに、国民全体がアメリカに自発的に隷従しているわけではない。そうではなく、「自発的隷従」とは、権力に与る者たちが自らの権力を守るために国民を売ってでも強者に媚びる、という事態を言うのだ。「アメリカ様」へ好みの「ご進物」を差し出して、自分たちが日本の統治者として居座ることを許してもらう。「お役にたちますぜ」というわけだ。それを「代官」という。

 すると、一見、国際社会のパートナーという形をとっても、実質は「属国」あるいは植民地と変わらない。だから日本の首相は、就任するとすぐ、まずアメリカ様に認めていただこうとワシントン詣でをし、大統領といっしょに写した写真を自国の新聞に掲載させる。それが日本の首相であることの承認儀礼になる。ところが安倍首相は、そのときオバマ「大統領様」に冷たくあしらわれ、晩餐会も開いてもらえなかった。ほとんど初めてのケースだ。けれども、日本のメディアはそれを報じず、「日米同盟が危ない」とも叫ばない。どうしてなのか?

 その答えはすでに述べたとして、もうそういう状態が七〇年も続いている。いい加減にわれわれも「アメリカ様」から自立したいものだが、「自立」とは戦後のもたらした資産を一掃して旧体制のゾンビたちが生き返ること(「戦後レジームからの脱却」?)ではない。そうではなく彼らを生き延びさせた「アメリカ様」への「自発的隷従」を断ち切って、グローバル世界に新しい地歩を作り出すことだ。その自立の胎動はいま、「ご進物」として久しく差し出され続け、もはやその運命に甘んじまいとする沖縄から最も力強く起こっている。


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2014年2月 8日 00:16に投稿されたエントリーのページです。

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