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2013年11月 アーカイブ

2013年11月 3日

『自発的隷従論』がついに!

自発的隷従論.jpg やっと出来た。いろいろな事情で遅れに遅れていたエティエンヌ・ド・ラ・ボエシの『自発的隷従論』(山上浩嗣訳、西谷監修、ちくま文庫)がついに発売になる(7日ごろ)。

 16世紀に年端もゆかないフランスの若者によって書かれた本の何がそんなに有難いのか、と思う向きもあるだろうが、どっこいそれがなかなか他には在り難いものなのだ。近代の病の進歩主義にも、それに付随する左翼右翼の図式にも、もちろんポストモダンとかのオタクな知的お遊びにも無縁で、人間(つまり話す生き物)の世界って、支配/被支配あるいは統治の構造ができてしまうとどうしてこうなんだろう、という不易の悪習の勘所をむんずと掴んで、それをみごとに解剖し、そんなことやめちゃえばいいのに! とは言ってもなかなかね~、でも知っているていうことがまず大事だよ、と教えてくれる類例のない書き物なのだ。

 その「不易の悪習」が「自発的隷従」だ。「隷従」とは言っても「自発的」だから、「自由」と区別できない。自由に喜んで誰かに媚びへつらう。誰かといっても、誰でもいいわけではない。支配関係の頂点(ないしは上位)にいる誰かだ。ラ・ボエシは王(暴君)のようなものを想定して、権力の頂点に立つ「一者」つまり「ただひとりの圧政者」と言っている。

 隷従する当人が喜んで諂う(へつらう)だけなら文句はないが、たいていこういう連中は隷従することで「一者」の歓心を買い、その威を借りて他の者たちを圧迫しようとする。あるいは「一者」の圧政を利用して、それを隠れ蓑に自分の勝手な意志を他に押しつけようとする。そういう連中には圧政が都合がよいのだ。そして、そういう追従者たちには、さらに小粒の追従者が付き従い...、というわけで追従者たちの末広がりの連なりができ、それが圧政を支えて持続させる構造をなすことになる。

 だから、支配の構造は、強力な権力によって維持されるのではなく、圧政に寄生してその構造から利益を得る無数の隷従者によって支えられるというのだ。

 これをラ・ボエシは昔の一国の統治構造を念頭に置きながら、古今東西の圧政のからくりだと言うのだが、グローバル化の現代の世界なら、そのからくりは一国の規模を超えた国際関係のなかでも生じうる。

 たとえば日本はアメリカに負けた。だが日本の統治者たちはアメリカにいちはやく「隷従」することで、身の安泰を確保し、占領統治の「一者」として君臨するアメリカに認められ支持されて、あらためて日本を統治するようになった。その代表例が、A級戦犯でありながら巣鴨プリズンから解放されて首相になった岸信介であり、原爆の被害にあった日本に、核の平和利用の大々的キャンペーンで原発を導入したメディアのドン正力松太郎だった。

 それだけではない。大本営は医務局を使って原爆投下の直後から広島・長崎に医師や科学者の大規模な調査団を送り込み、被爆者の治療はいっさいしなかったが、被曝直後の人的・物的被害の状況を克明に調査した。そして一万ページにおよぶ報告書を作り上げ、それをただちに英訳してその年のうちにGHQに提出した。その報告書はその後のアメリカの核戦略作成や放射線障害の研究におおいに役立ったのだが、なんと日本国内では一度も公表されず、被爆者治療に生かされることもついになかった(このことに肥田舜太郎さんは怒り続けている)。

 そんな具合に、一転アメリカに「奉仕」することで戦争期の日本の指導層は、自分たちが占領者であるアメリカに「役立つ協力者」であることを示したのだという(そのとき、彼らはアメリカと協力して広島と長崎の被爆者を実質的な核実験のモルモットにしたことになる)。その「自発的隷従」によって彼らは、戦後も日本の統治をアメリカから任されたのである。そんな勢力をまとめたのが自由民主党だったのであり、その後彼らはアメリカの「認可」と支持いや指示のもとに、戦後の日本の統治を長期に担うことになる。

 この「自発的隷従」は二世代・三世代と続き、初めは身を守る奸計でもあったものが、やがては「生まれたときから」の性根となり、何の疑問もない「自然」な姿勢になってしまう。日米安保体制とはそういうものだ。日本が世界でも稀な骨の髄までの「親米国家」になったのにはそのような事情がある。そんな事態を生み出すからくりにずばりと名を付けてくれるのがラ・ボエシのこの論文なのである。詳しくは本書の「解説」をぜひ読まれたい。

 「自発的隷従」という言葉がわたしの頭に強く浮かんだのは、2007年に『沖縄・暴力論』の企画を練っていたときだった。沖縄は広島・長崎の被爆者と同じように、日本政府の「自発的隷従」のためにアメリカに担保として差し出された貢物だった。だから米軍基地は無くならないのだが(米軍が自由に使えると日本政府が認めているから――それを取り決めたのが日米安保条約だ)、この梃子でも動かない頚木のために、沖縄にもこの体制への「自発的隷従」を選ぶ勢力が出てくる。そうして沖縄は分断されるが、教科書問題で沖縄戦の記憶が甦らされた2007年には、この分断を超えるうねりが沖縄に地響きを起こしたのだった。

 翌2008年に初の政権交代が起こったが、日米関係の見直しを掲げた民主党政権最初の鳩山内閣が、官僚群のサボタージュとメディアの集中砲火を浴びて一年ともたずに沈没したのは、この国の「自発的隷従」の構造がいかに根強いかを思い知らせる出来事だった。

 そしていま、民主党の大いなる失敗で「日本をとり戻した」安倍政権は、アメリカへの「自発的隷従」をさらに倒錯させて、主人たる「一者」にあからさまに嫌われても、なおその「隷従」を強めることでみずからの統治体制の強引な強化を目指している。いわゆる国防のアメリカ軍への全面的統合、TPPによる日本市場のアメリカへの無制約な提供、危うい核産業の肩代わり等々...。

 ただ、「特定秘密保護法案」に見られるように、「アメリカの要求」をアメリカに嫌われるほどに受け入れることで、安倍政権はアメリカを利用しつつ、「昭和の妖怪」のゾンビとして異様な国家作りに邁進してはいるのである。
 
 

2013年11月14日

ウィキリークスがTPPの関連文書を...

 なかなか更新の余裕がないので、とりあえず今日はいくつか取り上げるべき有益な情報を。

―久しぶりにウィキリークスが動いた。東京新聞が少しと毎日がベタ記事、朝日は無視したようだが、産経が伝えている。「ウィキリークスがTPP交渉の舞台裏を公開 賛否激突する知財の条文案か」(⇒)

―これを教えてくれたのは、以前紹介した(そして私も署名した)「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員」。東大を退職した醍醐聰さんを中心にしたこのグループは弁護士会、医師会、農業団体、消費者団体等をまとめて9月14日に東京文京区でシンポジウムを開いたが、今度は12月8日(開戦の日!)に日比谷野外音楽堂で大集会とデモを計画している(12.8大行動ポスター.pdf)。東京の人はぜひ参加されたい。

―ウィキリークスの活躍を見ると、これができれば秘密保護法があってもホゴになるのに、とも思う。

醍醐さんのブログ(TPP関連の正確を分析・説明・情報など)
TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会HP

2013年11月25日

『ゴモラ』続報、「企業の活躍しやすい国」

 以前、イタリアはナポリで、犯罪カンパニー「カモッラ」に吞み込まれた地域住民の生態を描いた映画『ゴモラ』について書いたことがある(『ゴモラ』、『サウダージ』、"経済成長"が生む"産廃"の闇、2011/11/07)。原作の小説を書いたロベルト・サビアーノは、しばらく身を隠していたが、とうとうカモッラのボスたちが捕まるようになった。その続報があった。ボスたちの件ではなく、「産業廃棄物処理」でボロもうけしていたカモッラが作り出した、ナポリの一角「死の三角形」の話だ(AFP-時事)。

 核燃料棒の取り出しが始まったという。これは電力産業という国家公認マフィア(原子力ムラ)の生み出した「産業廃棄物」ではないのか? このマフィアは自分たちの医者も抱えており、福島県立医大を拠点にするこの医者たち(鈴木真一教授ら)は事故が原因であることの明らかな子供たちのガンの異常発症も、事故とは関係ないと言い続けている(東京新聞「こちら特報部」2013/11/24)。

 カモッラは古典的マフィアの変異体のようなもので、複合企業の形をとっていた。だが、国策企業東電もそれと違うわけではない。表のショウウィンドーに見える部分では、体裁のよい大企業だが、背広にネクタイの腰から下は「ブラック」で足元は泥と闇に消えている。「ブラック」以下は「下請け」、いまの経済用語でいえば「アウトソーシング」の部分で、それも今では公然のことになった(だからせっせと「除染」しているが、東電が「除染」しているのは放射能ではなく、その「闇」の部分の情報だ)。

 この秋口、立命館の大学院の集中講義(「共生論史」)をやったとき、久しぶりに水俣病の古いドキュメンタリーをかけてみた。水俣病の工場廃液との関連を否認し、ようやく20年経ってそれが公式に認定されてもなかなか責任をとらず、地元や国の政治家たちを動かし、抗議に上京した患者たちを鉄柵の向こうで冷たい敵意で迎える背広ネクタイの男たち。日本チッソ(戦前に朝鮮半島でいちばん儲けた会社だと言われる)のそのあり方を、今の東電はほとんどなぞって反復している。東電を潰すと補償が滞る...といった政治家たちの論法もまったく同じだ。

 そしてこの企業の振舞いは、グローバル経済でも変わらない。インド・ボパールで大惨事を引き起こしたユニオン・カーバイト、枯葉剤でも何でも作って稼ぎ、今は世界の食品を先端技術(GM)で汚染しつくそうとしているモンサント...。そんな企業がロビー活動で政府を動かし、選挙資金の必要な政治家たちを買い、国家さえ私物化している(何度も言うが、privatizationという語を「民営化」と訳すのはほとんど隠蔽で、実態に合わせて「私物化」と訳さなくてはいけない)。多国籍企業もカモッラもやっていることは規模こそ違え、同じようなことだ。

 日本の首相安倍は、「日本を世界一企業が活動しやすい国にする」という。ということは、こんな大企業群に国を明け渡すということなのか。それが「日本を取り戻す」(今でもそんな広告ポスターがあちこちに貼ってある)ということだとしたら、安倍はそんな企業マフィアの尖兵だということだ。

 「秘密保護法」はこのような企業マフィアへの政府の明け渡しを露見させないための備えでもある。大企業と組んで国家も「ブラック」になる。国家は「カモッラ化」する。その「ブラック」を隠すのが「秘密保護法」だ。

 こうして、民主主義を標榜する代議政治(選挙システム)のもとで、封建制時代と同じような支配/被支配の構造が作り直される。これがかつての封建制より悪いのは、身分制を排した平等社会だと装いながら、貧富の格差や支配階層の実質的な固定化を、「自由」の原理のもとに圧倒的な力の作用を通じて運命的に正当化してゆくからだ。

★FBにこんな情報が入ってきた。「岩上安身よりみなさまへ」。企業メディアが政府や企業のPR機関に堕するなかで、インターネットを使って自前のメディア形態を追及しようとする人たちが出てきたが、それもやがて資金難で消えてゆく。そうなるとインターネットもPRの生簀か攪乱情報の泥沼になってしまう。IWJのような試みはもちこたえてほしい。DAYS JAPANも転機にあるようだ。いま編集長を公募している。こちらも注目したい。 
いのに

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