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今日のアフリカ

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ポリオ根絶に見る感染症と政治

2020/09/13/Sun

8月25日、WHOはナイジェリアがポリオ撲滅に成功したと発表した。野生株由来のポリオ患者が2016年の4人を最後に出ていないことを根拠として、根絶が発表された。これで野生株由来のポリオがみられるのは、世界でアフガニスタンとパキスタンだけになった。
 ナイジェリアでポリオが完全になくなったわけではない。生体ワクチン(Sabinワクチン)は経口で投与され、簡便で安価だが、100万人に3件の割合で麻痺を引き起こすとされる。ワクチン由来のポリオが発症する危険は、依然存在する。しかし、野生株による感染リスクが100万人に5000件であることを考えれば、ワクチン接種の意義と必要性に疑問の余地はない。
 8年前、ナイジェリアは世界の新規ポリオ感染者の半分を占めていた。また、北部において、ポリオワクチンはムスリムを不妊にするための陰謀だとの説が流布するなど不信が広がっていた。最近までこうした状況であったことを考えれば、今回の野生株根絶は目覚ましい成果と言える。この背景として、ブハリ大統領の政治的意思を評価する声がある。広く流布した陰謀説を否定するために、同大統領は自分の孫にワクチンを投与するなど、普及を後押ししたという(9月11日付ファイナンシャルタイムズ)。
 感染症対策は陰謀説に悩まされるのが常である。コンゴ東部で、エボラ対策に従事する医療機関が襲撃された事件は記憶に新しい。ポリオの例は、感染症対策において、毅然とした政治的意思の表明が極めて重要であることを示している。