ワークショップ「女性の運動としてのアヴァンギャルド」
イベントレポート

概要

日時 2019年6月15日(土) 14:40-16:40
場所 日本比較文学会大81回全国大会(於 北海道大学)
主催 日本比較文学会
司会

沼野恭子(東京外国語大学)

報告

西岡あかね(東京外国語大学)
小松原由理(神奈川大学)
横田さやか(東京大学)

 近年、表現主義、ダダ、イタリア未来派などに代表される、いわゆる歴史的アヴァンギャルド運動の中で女性芸術家が果たした役割が従来知られていたよりも大きかったことが、様々な研究によって明らかになり始めている。この研究動向を受けて、「忘れられた」女性アヴァンギャルドの作品集や資料集成の出版も盛んになっている。しかし、アヴァンギャルドとジェンダーの問題を考えるためには、女性芸術家の存在を再確認するだけでは不十分だろう。むしろ、アヴァンギャルドが「作品」を中心とする芸術観から離脱し、「体験」や「パフォーマンス」としての芸術実践に移行しようとする過程で、女性の身体や性の問題が前面に出てきたことによって、女性芸術家たちの活動の場が開かれたと共に、彼女たちが自らの芸術家としてのアイデンティティについて考察する必然性が生じたことに注目する必要がある。同時に、男性芸術家が、自らの芸術家としての優位的立場がもはや自明のものでなくなるという事態に直面して、いかなる男性/女性表象を生み出したかにも光を当てなくてはならない。

 本ワークショップでは、この点を踏まえ、主にドイツ語圏とイタリアのアヴァンギャルド運動を例に、女性アヴァンギャルドが芸術論的文脈の中でいかなる男性/女性表象を生み出しているかに光を当てることで、アヴァンギャルドにおいてジェンダーという問題が、従来考えられてきたような周辺的なものではなく、むしろ本質的な意味を持つものだったことを明らかにしたい。

 西岡は、主にドイツ語圏のアヴァンギャルドを例に、その青年運動的性格も踏まえつつ、アヴァンギャルドのマスキュリニズム的主張の背後にある、男性芸術家の自己意識の揺らぎについて報告する。同時に、この時代に芸術運動に参入した女性芸術家に共通する社会的、文化的背景をまとめ、彼女たちが芸術家としての主体性を獲得することの困難さを指摘する。

 小松原は表現主義からチューリッヒ・ダダに至るエミー・バル=ヘニングスの多彩な活動を概観し、彼女の芸術と女性性をめぐる言説を辿りながら、彼女がドイツ語圏のアヴァンギャルド運動に果たした主体的な役割を再検証する。

 横田は、まず近年のイタリア未来派再考の流れをまとめ、女性蔑視的運動という従来の未来派解釈を批判的に検討する。その上で、文学を始めとする未来派女性アーティストたちの作品を取り上げ、身体性と精神性が共通するテーマとして浮かび上がる点を指摘する。

 更に司会の沼野が各発表を補足して、女性芸術家の活動が特に盛んだったロシア・アヴァンギャルドの状況を説明し、各国のアヴァンギャルドがジェンダーに対して示した態度の相違と共通点を考えるヒントを提示する。